2004/9/19 歌舞伎座「九月大歌舞伎 夜の部」
三谷潤一(教育関係出版社営業部勤務42歳)
「恋女房染分手綱 重の井」は母親と子の再会と別れの場面。
斜め前方の御年配の御婦人が、しきりに目許をぬぐっていたので、何かあったのかな?と不思議に思っていたら、周囲から洩れ聞こえてくる啜り泣きがだんだんと広がっていって、空気が変わっていくんですよ。
芝翫演じる重の井と、孫の国生演じる三吉は本当に涙を流しているわけではないんですが、親子の愛情を表に出せないつらさ。
そんな事情を知らない周囲がまた「気がついてやれよ可哀想に」という仕打ちを悪気もなく与えるから、もう涙涙。
母親にとっては感情移入がとまらない話なのかなぁ。
周囲が泣いている中でぼーっと見てるというのは、われながら鈍い奴という感じがします。
歌舞伎歴が浅いからだろうけど、あんなに涙にくれる客席は初めてでした。
芝翫スゴイ。
さすが人間国宝。
「男女道成寺」では「五世中村福助七十年祭追善狂言」の冠がついてます。
この舞台の中で「この中で先代の福助さんを観たことのある方は?」と坊主達が問いかけた時に、「はーい」と手を挙げた御婦人。
先程、いち早く涙をぬぐっていた方でした。
隣の御婦人(ひょっとしたら娘さん)に「いい男だったのよぉ」と囁いてました。
少なくとも観劇歴70年は越えてるということですよ。
おいくつなんだろう?
そんな長いつきあいのお客がいる芸能なんて、そうそうないですよね。
奥が深いですねぇ。お話をうかがってみたい衝動に駆られてました。
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