2004/10/9 すみだトリフォニーホール・小ホール
神田山陽独演会「みっちり!山陽」
加藤隆也
「鼠小僧外伝」
中入り
「森の石松」
ワタシは久し振りの山陽だった。
5月26日、お江戸日本橋亭の「神田山陽の会」以来だ。
時は折しも「台風22号本土上陸」の真っ只中。
傘の骨を折り這々の体で会場に着いたらさすがに地下にある立派なホールだ。
外の暴風雨を微塵も感じさせない落ち着き振り。
ただ、チケット完売だというのに客の集まりが些か悪いなぁ、と思いつつ席に座っていたら18時50分、開演予定10分前に神田山陽が高座に現れた。
風体は煉瓦模様の肌襦袢で裸足、手には風呂敷包み。
予定より早く出てくると言う話は立川談志師匠で聞いたことはあったが、びっくりした。思わず拍手。
曰く「こんなとんでもない天気の中に来てくださったお客さんに申し訳なくて早く出て来ました。遅れて来られる方のことを考えて10分遅れて始めます」と言う。
その時会場は五分の入りと言った所だろうか。
久し振りの「生着替え」をしながら、「煉瓦模様の襦袢を常盤台に住んでいた柳女楽師匠に貰った顛末」「今年はもう独演会はやらない。恒例の12月24日・紀伊國屋ホールも28日まで芝居の公演が入っている」(がっかり...)「真打披露の際に〈めうが屋〉の白足袋を三増紋之助さんに作ってもらったものを今夜初めて履く」「芸人は足袋は立って履けなくなったらお終いだ」「浅草の〈帯源〉の帯は二つ目になった時に買ったが、高いものでコレが芸人のステイタス。この帯を後ろ手でスイスイ結ぶ練習したもんです」「この赤の3本線の紋付きはSWAで作ったモノだが、特注は八反がロットで三反余ったので引き取って、紋を考えて貰って紋付き・羽織にした」などと話していたら幕間から「10分経ちました」と声が掛かった。出直しです。
「最近は満員の会場でやらせて貰っていたので、こんな風に空いた会は久し振りです」「まさか台風でもやると思わなかった」「でも払い戻しはできないし」「北海道でプロモーションTVに出演して、収録の待ち時間に久し振りにテレビゲームをしました。久し振りだったんですが、その後、汐留のHMVでaikoの〈テレビゲーム〉と言う曲を試聴して泣きました。前からaikoの顔は好きだったですが、曲にどっぷりはまって・・・。以来封印していたんですが、嵐の日に来てくれたお客さんとこの感じを分かち合いたい(笑)。皆さんも聴いてみてください」
〈テレビゲーム〉
「嫌なことばかりあって、要するに私は泣くきっかけが欲しかったんだと思います・・・」と心情を吐露する山陽。「これが今年最後の独演会になります。自分チに来て貰っているような会にしたい」と。
ワハハ本舗の話からお馴染みの「鼠小僧外伝」に入る。額に汗する熱演。何度聞いてもいい話です。
20時10分、中入り。「私は引っ込まないで高座にいますから、みなさん適当に休憩してください」で笑う観客。先生を置いては席立てません。
会場から「栃木から来たのよ」「遠い所、こんな天気の日にありがとうございます。もっと遠い方いらっしゃいますか」「長野、茅野。テレビで見て来たんだよ」「なんですかね」「3チャンネル」「えっNHK。なわけないですよね、長野だもんね。レディース4かな」「あそうそう」と居続けの休憩は和む、和む。
「五分の入りは久し振りですねぇ」と山陽もしみじみ。
本当に山陽さんチの茶の間にいるような空気が流れる。
「鈴本に出てください」との女性の声に
「出たいんですけれどねぇ...」といろいろと説明する山陽。
台風のお陰で高座と客席が不思議な一体感に包まれていた。そのまま雑談とも付かない話をしながらホノボノとした時間が過ぎる。山陽も肩の力が抜けているのが手に取るように判る。
「明日は白鳥さんと新潟の直江津の仕事」「家に帰りたくない」「加川良の手紙って
吉田拓郎の曲はご存じですか」
「では、二席目はリクエストで・・・.」に客席から「三方ケ原の合戦」。
すかさず「それはできません」とさわりを。「他に何か・・・」「殺したい女」。一瞬考え込んだ山陽。いきなり立ち上がり「ちくしょう!」とさわりを(笑)。
次のリクエスト「森の石松」で新作の方を。笑った。
最後に「今年はいろいろと有り過ぎました。来年は何もないかも知れない。変化しつつあります」と締めて、「今夜は、私はここから皆さんを見送らせて頂きます」と言う山陽の元にファンが集まっていた。
嵐の夜の奇跡を見ているような素敵な独演会だった。
そんな山陽には12月15日の「SWA」で会える。
top |