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2004/10/4〜7 しもきた空間リバティ 「絹6」
shou_chong
4日間とも拝見。以下、パンフレットに書かれた順に感想を。
・ENBUゼミー0410
男女共学になったばかりの元女子高の生徒会長選挙。
立候補したのは行動力のありそうなツルマキさんと、三人しかいない男子生徒の一人タナカ君。
日ごろから男子は冷遇されているらしく、どう見てもタナカ君劣勢。
そこで、伝説の女子高生、リベラル林に応援を頼み……というお話。
登場人物は5人。タナカ君の友達と先生の出番が少なかったのがもったいない。
5人入り乱れてとんでもない展開になってくれるとよかったなあ。
でも、日に日に改良が加わって、最終日はツルマキさんが用意した賄賂、メロンパンの出し方も工夫されてました。
ベレー帽をかぶった不二家のペコちゃんみたいな雰囲気の女の子が、リベラル林というのは意表をついていてよかった。
欲を言えば、もっとラジカルにリベラルだとさらに面白くなったと思う。
・ユリオカ超特Q
頭髪問題をかかえた人たちの集会、ユリオカさんはその講師という設定。
コンプレックスを逆手に取ったネタ。
ウジウジ悩むより、いっそ笑い飛ばしてしまえということでしょうか。
自分で自分を料理する。
それが痛々しくならず、カラッと明るく(あ、この言葉は頭髪問題をかかえた人にはNGでしたか?)見せられるのは、ユリオカさんのキャラクターゆえなのでしょう。
オチは3日目から少し変わっていて、さらに哀愁が漂ってましたね。
・THE GEESE & 第三期コントサンプル
後ろ向き過ぎる兄と、前向き過ぎる弟。
矛盾した発言ばかりするコンビニの上司と、その上司に翻弄される店員さん。
この中でまあまあまともなは店員さん一人。
でも、万引きをした兄の調書をとるのに「優しく聞く(=質問する)から」と言いながら、結構キツイ態度だったし、結局みんなどこか変なのかも。
THE GEESEのお二人は6月のころよりうまくなってましたね。
だから自然に笑えてよかった。
・バカリズム(10/4)
男子高校生二人のお掃除風景。
なんだけど、一人は明らかにロボット。
人型(ひとがた)ロボットなら、人間が面倒と思っている雑事をいっさい引き受けてくれる便利で高性能なものを期待するのが人情。
しかしこのロボット君、動きがギクシャクしていてお掃除にはまったく不向き。
それどころか機能はたった一つで、ほかのお仕事は何もできなさそう。
人型の意味なし。
でも、友情ははぐくめそうな予感。
と思ったら、ちゃんとオチがありました。
同級生がロボットだとわかっても驚きもせず普通のトーンで話を進めていくところが、今の笑いだなあと感じました。
焦点のあてどころを誤るとクサクてクドクなりますからね。そのへんのさじ加減が絶妙で感心しました。
・ヨージ(モテたい部)(10/5・6)
小学生のセツコちゃん一家の春夏秋冬。
ヨージさんは人物造形が見事です。
(たぶん)大工のお父さん。
パートで働いているらしいお母さん。
おデブさんで食いしん坊の中学生のお兄ちゃん。
仏壇の部屋で寝起き(もしかしたら寝たきり?)しているお祖母ちゃん。
それに転校生のユミちゃん。
セツコちゃんが密かに思いを寄せるクラスメートの男の子。
無駄をそぎ落としたセリフから、それぞれがどんな性格か想像できる。
そして、それがとても楽しい。
セリフの一言一言がユーモラスでしかも美しいのも魅力です。
お金持ちのユミちゃん家で出してもらったおやつはウエハース。(これがゴディバのチョコレートなんかでないところに繊細なセンスを感じてヨージファンは痺れます。)
ウエハースはサクサクして霜柱みたい。(このセリフは時間の都合で6日は省かれてました。)
ユミちゃん家には、家族の誰も星に興味がないのにこんなに大きな望遠鏡がある。
お母さんの傘のことを「貴婦人のような傘」というお父さん。
セツコちゃんに、ファミリーレストランで「お食事会」をしようと誘うお父さん。
ちょっと古風で品がある。
ヨージさん、マンガも含めてかなりの読書家だとわかります。
詩的というか文学的な香りがします。
そして話の展開は映画的でもある。
数学的、哲学的な要素もあるかな。
脳味噌のいろんな部分を刺激される心地よさ。
ファンなので書き出せばきりがありません。
たぶん9割のお客さんがネタを見る前は「ヨージさんって何者?」という顔をしていたと思う。
しかし、15分後には「ヨージさんって只者じゃない!」に変わっていた。
その過程をつぶさに見られたのは貴重な体験でした。
・東京ダイナマイト(10/7)
さる工場の昼休み。
班長とバイト君の会話。
班長がバイト君にお金を渡して「弁当買って来い」と言う。
それだけの設定なのにおかしい。
話の転がり方がベタなボケとツッコミじゃない。
そこがよいです。
言っていることはおかしいのだけど、台詞回しは自然なんです。
そこもよい。
一昔前ならしつこくエスカレートしていくパターンで喜んでくれるお客さんもいたことでしょうが、今時、目の肥えた演芸ファンがそれで満足するわけがない。
演じる側だってツマラナイと思う。
ボケをむやみに責めたりせずに、与太郎は与太郎のまま適当に話につきあう態度は、落語的な発想かもしれませんね。
・松尾貴史(10/4)
永六輔さん言うところの「剃刀で描写するモノマネ」の達人松尾さん。
かつて大橋巨泉さんがタモリさんのことを「形態模写ならぬ思想模写」と評していたけれど、その感覚に近いのではないかしらん。
ステージに登場なさる前から永さんの声が流れてきて、もうおかしくてたまりません。
錯視絵図を見せながらさまざまな人に扮するわけですが、ただ似ているだけでなく適度な毒がスパイスになっていて、それがまた味わい深いのです。
最後の中島らもさんは新聞の連載も楽しく拝読していましたし、あの飄々とした様子も非常に印象に残っています。
だから笑いながらも嬉しくて、同時に「ああ、松尾さんはらもさんと親交がおありだったのだなあ」なんて感慨も抱きつつ拝見しておりました。
そうしたらいきなりご指名を受け、ちょうど鏡に写したように反転させたひらがな数文字(「○○の××」という意味を持った単語のつらなり)を読むという課題に答える羽目になってしまいました。
1問目、2問目はよかったのですが、3問目には見事引っかかりました。
私の頭は笑いで充満していましたからね、急に知性を使う方向には動いてくれないのですよ。
たぶん、そんなことはすべてお見通しだったのでしょうね。
この3問目、正解のほうはなんでもない答えなんですが、不正解のほうはちょっと人前では口にしづらい恥ずかしいものなのです。
で、不正解が頭に浮かんだ私は(まあ、ほとんどの人がそうだったと思いますけど)絶句しておりました。
すると、らもさんに扮した松尾さん、「どうして黙っているのですか?」とおっしゃいます。(ここでお客さん爆笑。)
そしてやや間をおいて誰もが間違えたであろう一文字を指さして、「この文字は○ですよ。うまくいったのでこれで終わります」と言われ、アッサリ退場されました。
私は、不正解はもちろん正解も口にされない松尾さんのセンスの良さに惚れ惚れしました。
ここで得意げに説明したら野暮ですからね。
それに、不正解も正解も口にできないお客を見抜いた眼力にも感心しております。
あの場は、演者も観客も全員が心の中で「不正解はアレで、正解はコレだな」と思うのが美しいのです。
理想の形で終わらせることができて、松尾さんしてやったりでしたね。
そして、どちらの答えが頭に浮かんだにせよ、声に出さなかった絹のお客さんも偉かった。
こんなとき、出しゃばって答えちゃう無粋なお客さんが一人くらいいるものなのですよ。
粋な松尾さんと、粋な絹のお客さんに拍手です。
・楠美津香(10/5)
日傘とヴァイオリンを手にした和服姿の軽井沢夫人。
美しい……けど、一筋縄じゃいかない曲者。
狂気と知性の激しい往復。
その針のふれ幅が大きくて、観るものを圧倒します。
アブナイ……けど心地いい。
陶然とするほどの妖しい魅力。
うーん、魔力と言ったほうがいいか。
麻薬に溺れるのってこんな感覚?
タ○○さんもシ○○さんもクスリで体こわす前に美津香さんのステージご覧になるといいですよ。
そして「働きな!」って渇いれてもらってくださいね。
・本間しげる(10/6)
「命のテレフォン」の相談員。
でも元気溌剌じゃなくて、心の病み上がりという風情。
自分も経験者だから悩んでいる人の気持ちがわかるってことなんだけど、アドバイスする方向がなんだかおかしいような気がする。
でも、へんてこのようでいて、一理あるような気もする。
正常なんだか異常なんだか、灰色区域を小刻みにジグザクしながら、いつの間にか危険区域に達している。
その意味では美津香さんとは対照的な展開。
本人はミスリードしてる自覚はないのでしょうけどね。
この相談員さんの発言に笑いながら、「こんな人いるかもしれない」と思う。
もっと言うなら「誰にもこんな一面があるのかもしれない」とも思う。
本間さんにはそんな説得力があります。
偉大な人ですねえ。
・高山広(10/7)
お題は二つ。
まずは東北弁で会話する牛二頭。
自分たちにはおそろしい運命が待っているのではないか?
人間の態度からそんなことを不安に感じた一頭、友達のもう一頭に質問する。
友達はBSEのことかと思い、心配するに及ばないと請け負う。
しかし彼の不安は病気のことではなく、もっと直接的な生死に関わることだった。
牛二頭は真剣に会話しているのだが、考えてみれば肉牛の最終的な運命はBSEになろうがなるまいが、同じことなんだな。
そこがおかしくもあり、気の毒でもあり。
もう一つが傘立て。
ただの一斗缶も傘を1本入れられただけで、傘立てになる。
役割を得る。
ゴミが機能を持った道具に変わる。
それが感動的。
高山さんのネタは笑いながら感動する。
そこが魅力。
傘の柄をクエスチョンマークに見立てるセンス、私は好きです。
・すわ親治
同居中の息子一家から旅行に誘われた父。
初めてのことだけに素直に喜べず、何か裏があるのではないかと疑心暗鬼。
それでも断ることもできず、一緒に伊香保温泉に出かけたのだが……
このお父さん、昔は決して模範的ないいお父さんではなかったようだ。
年をとってからは丸くなったみたいだけど。
二年間家に帰ってこなかったなんてこともあったらしい。
何してたんでしょうね。
カラオケボックスで昔の歌を歌いまくるところが好きです。
毎回笑いました。
すわさん歌うまいです。
最後に歌う曲はもともとは「東京だよ、おっかさん」なのですが、3日目は「東京砂漠」、4日目は「襟裳岬」でした。
オチもちゃんと変えて。
サービス精神ですね。
すわさんの独り語り、ほんとによいです。
4日間見てもあきなかった。
もう、その実力に感心するほかありません。
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