8/14 Studio twl ヨージ(モテたい部)公開スパーリング
shou_chong
ヨージ(モテたい部)、ここまでが芸名。
一人コントの人、あるいは一人芝居の人と言ったほうがよいだろうか。
雑音フェティッシュで三回拝見。
毎回ランニングにチノパンというシンプルな衣装で登場。
知的。語彙豊富。表現力豊か。構成見事。着眼点秀逸。上品。繊細。控えめ。ほどがいい。恥じらいがある。そんな印象。
他の若い芸人さんたちが前のめりになって目立とうとしている中で、一歩後ろに控えて自分の立つ場所を冷静に見つめている。それが却って目を引き、また、そのもの静かな様子が意図的なものでないだけに心に強く残る。
一度じっくりソロライブを見てみたい、と思い出かけた公開スパーリング。
「9月11、12日のソロライブに向けてトレーニング中の姿をお客様にお見せします」ということらしい。といっても未完成なものを舞台にあげるという意味ではない。普段とは趣を変えたネタも織り交ぜつつ、客が十分満足できるものを見せてくれるれっきとしたプロである。
ストーリーの大きな芯はヨージさんの過去から未来。むろん未来はフィクション。過去も事実をモチーフにしたフィクションだと思う。それを時系列にではなく、時空をあちこち行き来しながら見せる構成。
トイザラス店内の居心地のいい場所で横になり熟睡していたおじさん。店員に起こされ、そこから追いやられる。どうやら決まった住所を持たない人らしい。一時は羽振りがよかったのだが土地を売る時期を見誤り、無一文になった気の毒な身の上。
「あの時、あの駅前の(記憶曖昧)土地さえ手放さなければ……」と過去をあれこれ回想。
つい最近、世をはかなみ、訳ありのはとバスツアーに参加。
もっと若いころ、お笑い界の頂点に立ち、「トップランナー」に出演。自信満々に語りまくる。態度の大きなロックミュージシャンのよう。高校時代、お笑い芸人を目指していたころの話を披露。当時のネタ帳(これは本物らしい)を見ながら自分でダメ出し。
もう少し若いころ(つまり現在)、ソロライブに向けて血のにじむような稽古の真っ最中。ベタなギャグ、ツッコミを何度も繰り返す。「なんでやねん」「紅葉饅頭」「メガネ、メガネ」等等。それが笑いの基本、王道と思っているらしい古いタイプのトレーナー(=あらかじめ本人が録音した声)、ヨージさんが独自性を出そうとすると、たしなめて軌道修正。ヨージさんも「すみません、今はやりのオフビートの笑いに走ってしまいました」と謝る。
高校時代、友人とコンビを組み文化祭で晴れ舞台を踏む。しかし最初はうけていたのに、調子に乗った友人がシモネタに走り、最後は散々な結果に。「一度川が汚れてしまったら、鮭は二度とその川に戻ってこないんだ!」と例え話で怒るヨージさん。
そんなこんなの虚実ないまぜにしたエピソードなど織り込みつつ、普段のネタも、そしていかにもベタなキャラクターコント、スケッチブックに描いた絵を見せながらツッコミを入れるなど、(たぶん)ふだんはしないようなネタも披露。それらがきちんと面白い。おそらく当人の美意識からすると衣装を記号のようにまとうベタなキャラクターコントは好みではないはずなのに、決してダサくもならず、品よく見せられるのはたいした力量だと思う。
とにかくセンスのいい人だ。
雑音フェティッシュで見たネタ。
小学生の女の子、下校途中近道をしようと神社の中を通り抜けようとする。そこへいきなり現れたおじさん。女の子が驚いて言った言葉。
「わあ! 神社に勝手に住みついている人だあ!」
どこかユーモラス。だけど馬鹿にした響きはない。目線が水平なのがいい。ホームレスとか路上生活者ではまったく面白くないし、冷たい印象だ。きたやまようこの絵本「りっぱな犬になる方法」の中にある「ひとりぐらしの犬」という言い回しにも通じるステキな表現。
公開スパーリングの中の台詞。
「日本人扮する白塗りのチャップリンや、日本人扮するマリリン・モンローほどもの悲しいものはない」
これに同意できる人はきっとヨージさんのステージを楽しめることでしょう。
もう一つ重要なこと。
お客さんがよい! 公開スパーリングに集まったのは三十数人といったところだろうか。行儀が良くて、どちらかといえばおとなしく、派手に笑ったりはしないのだが、ヨージさんの世界をきちんと理解した上で楽しんでいるのがわかる。幸せな空間、時間、が共有できてありがたい限り。
お客がよい、ということはよい表現者の証である。しかし表現者の知名度があがるにつれ、(表現者の質は低下していないにも関わらず)勘違いしたお客も現れてくる。これも悲しいけれど現実だ。今は双方のバランスがとてもよい状態だと思う。だから、表現者もお客も良質の理想のライブをお楽しみになりたい方は、ぜひ一度ヨージさんのステージをご覧いただきたい。
(とはいえ、笑いの好みは人それぞれ。予想に反してお楽しみいただけなかったとしても当方一切責任持ちません。彼の笑いを受け止めるセンスがなかったのだ、とあきらめてください。)
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