8/12 岩波ホール『父と暮らせば』
高野ガラス店主人45歳
親父の墓参りを済ませたその足で、
『父と暮らせば』を見てきました。
井上ひさしの傑作戯曲がどうなっているのか、
とても興味があったんです。
原爆投下後の広島。
「生きていることが、申し訳ない」
「生きていることが、不自然」と叫ぶ娘。
かたくなな娘の気持ちを受け止める父。
それ以上のことは、何も話せないんですけど、
健気な宮沢りえと、
飄々としたユーモアの中にも、強い父親像を創る原田芳雄。
ふたりの芝居に見入ってしまいます。
昭和ヒトケタの両親は、ことあるごとに戦争の話をしました。
子供の僕にどこまで理解出来るかなんてことに関わりなく、
疎開、空襲、空腹、戦後の苦労等、いろんな話をしました。
肉親から聞く戦争の話は、本で読むものより身に染みますね。
勿論、想像の域は出ないんですけど、
僕にとっても「第二次大戦」は、単なる普通名詞ではありません。
両親に、これほどまでに強烈な思いを植え付けた「戦争」。
実感はなくとも、気持ちは伝わると思います。
でも、もう僕等より下の世代には、何の感慨もないのかも知れません。
だって彼らの両親が、戦争を知らないんです。
戦争を知っている祖父母は、遠い田舎に住んでいるし。
いい年になるまでカボチャの嫌いだった親父。
疎開先の学校のクラス会に絶対行かない母親。
「戦争」を知っている人には、必ず何か特別な思いがあるんですね。
でも、それは聞かなくちゃわからない。
話して貰わなくちゃわからない。
そして、それを「聞く耳」を持たなくちゃ、
未来永劫知ることはできません。
この映画は、たった3人しか出てきません。
むごたらしい場面も殆どありません。
宮沢りえが、可憐で健気で美しければ、そうあるほどに、
原田芳雄が剽軽であればあるほどに、
戦争の悲しみ、苦しみが、強く迫ってくるんです。
娘に「お前は、生かされている!」と叫ぶ父親の姿。
そこには原作者・井上ひさしと監督・黒木和雄の思いが詰まっている。
一体何人の心に届くのか分からないけど、
そう言い続けずにはいられない。
それが「戦争」を知る人間の使命とでも言うように・・・
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