11/6池袋演芸場十一月中席夜の部
「権チャンに泣かされちゃいました」
三谷潤一
映画でも観ようかと思って池袋へ行ったらお目当てがみんな立ち見だっていうから、新文芸坐の座頭市にも魅かれたんだけど「今、我が家には権チャンが足りない!」という夫婦の意見の一致を見たので、池袋演芸場へ。
喬四郎 「牛ほめ」
遊平かほり 漫才
遊一 「たらちね」
喬之助 「初天神」
小太郎 「ふだんの袴」
喜多八 鬼平と老スリとの噺
アサダ二世 奇術
源平 「居酒屋」
しん平 「男の料理道 餃子編」
仲入り
一朝 「天災」
権太楼 「芝浜」
権チャンというのは権太楼師匠のことで、必ずや爆笑させてくれるだろう、という期待をして行ったんです。
油断したなぁ。お恥ずかしい話ですが、涙が頬を伝いました。権太楼の「芝浜」。
まず思ったのは「プロジェクトX」になってた、ということ。危機を夫婦が乗り越えていく、っていう。
最初に「うわ〜」って思ったのが、酒を止めて仕事に精出して店を構えるまでになった大晦日にしみじみと魚勝の言ったこと。
「俺、酒止めてから趣味がなくなっちゃったって思ってたけど今の俺の趣味は仕事だな。お客さんが喜んでくれるときが一番嬉しいんだ。仕事が楽しみなんだ。だから仕事が趣味だ。」
これで泣けてきて。仕事が億劫なところから働くようになるまでの魚屋稼業を細かく演じていたから、この科白が生きてました。
それを聴いて女房は財布を見せる決心をする、というのが膝を打ったり頷いたりもせずに伝わってくる。
この後の夫婦のやりとりが穏やかに始まるんですよ。
女房には「これで離縁になっても仕方がない」という覚悟が見え、夫には笑みさえ浮かべる表面の奥にある騙されたことへの煮えくり返るような怒りが伝わってきて「この夫婦どうなっちゃうんだろう?」と思わせる。
「自分は自分としてしか生きられない」という互いが互いをぶつけ合って、理解しあって乗り越えて夫が女房に「一緒に飲もう」と酒を注ぎあう。
そこには共に苦労した同志のいたわり気遣いがあって、だから「プロジェクトX」だ!と感じたのかもしれません。
客席は一杯ではありませんでしたが、少なからず通っている方々がいらっしゃるようでした。あんな芸を聴かせられたら通いたくもなりますよ。
侮れないなぁ、池袋演芸場。
マイク無しで、満席でないあの空間で名人芸に遭遇した喜びは優越感を伴って、なんとも贅沢な気持ちにさせてくれました。
小学生の姉妹がお父さんと三人で来ていて、行儀良く楽しんでいました。
「芝浜」には退屈していたようですが、終盤、大の大人たちが涙している異様さにしきりに客席を振り返っては不思議そうな顔をしていたのが印象的でした。
多分、オッサン達がぐすんぐすんしている光景は一生忘れられないだろうな。
その記憶の中に俺も混じってんだろうな、きっと。
終わってから女房と二人で気分良く酒を酌み交わしたのはいうまでもありません
11/5,6日本教育会館一ツ橋ホール
「江戸文化体験塾・400年記念落語会」
三谷潤一
江戸文化体験塾の表彰式があるような話だったのに、そういうのは全くなかったで
すね。その代わり、江戸時代からの古典に演目を絞って、という縛りがありました。
タイトルからして当たり前といえば当たり前ですが。
■11/5 談修 「出来心」寄席の踊り
談春 「三軒長屋・前半」
紫 「春日局」寄席の踊り
昇太 「権助魚」
志の輔「徂徠豆腐」
昇太の「権助魚」でわいた後、志の輔がいつになく早口で笑いの効用について語り
「ガッテンしていただけましたでしょうか?」
いつもと様子が違うので不思議に思ってたら
毎日新聞のコラムで「落語が初めての人が多いように感じた」と書いてあったのを見て納得。
テレビに出てる志の輔をわざと見せて初めて聴く人でも落語に入りやすくするためのマクラだったんですね。
「徂徠豆腐」心が洗われるような心持ちにさせてもらいました。
いつものことながら、客席のあちらこちらから鼻をすする音が聞こえ、涙を拭う仕草が見受けられました。
個人的には多少の警戒心も働いて泣くまでにはいきませんでしたが、志の輔人情噺の登場人物の気持ちの美しさは聴いていて気持ちがいいです。
■11/6 喬太郎「錦の袈裟」
小雪 太神楽
花緑 「厩火事」
談志 「蝦蟇の油」
客席の反応をうかがいながら、どこに絞っていいのか困っている喬太郎がおかしかった。
芸人さんが困っている様を見せてくれると妙におかしい。厭な客だな。
もっともそんなことは承知していて困っているかのように演じていたのかもしれませんが。
立川流家元はレストランジョークで沸かせた後、四文字言葉や北朝鮮ネタで客席を引かせて、その様をからかったりと自由自在。
「トリでこんな噺を演る奴は俺様くらいしかいないだろ」と「蝦蟇の油」。
初めて生談志で聴いたのがたしかこの噺で、英語バージョンの口上に「あ、これが切り口の違いか」と感じたことを思い出しました。
懐かしい。
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