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志の輔らくごの世界へようこそ。まずは《新作落語編》
パルコ公演を3倍楽しむために
美乃吉
毎年、年末のパルコ公演でお目見えする「志の輔新作らくご」。
新作のネタおろしなんだから、これから行くパルコ公演で、どんな噺がかかるかは、全く予想できないけれど、
今まで作られた落語の中で、大きな流れが二つある。
そこんとこ、押さえておくと、ちょっと楽しみが倍増するかもしれない。
まず、「ファミリーもの」。
例えば、『バスストップ』『踊るふぁっくす』『ディア・ファミリー』『はんどたおる』なんかは、ファミリーものに分類してよいでしょう。
もしかしたら、『親の顔』も入れてもいいかもしれないなぁ。
夫婦、親子、家族・・・私達が生きるこの世の中の最大公約数の社会単位。ありえない会話は一つもない。
すべて、「あるわぁ、あるわぁ、あるのよ、あるってば」と思うような台詞の応酬。
それなのに、なんだかおかしな世界をつくりあげたり、変な方向にいってしまったり・・・。
私達の日常は、こんなオカシナことにいつもくっついている。そんな志の輔ファミリーもの。
そして、この「ファミリーもの」には、隠れキーパーソンがおります。
そこんとこも、頭の隅にインプットしておくと、更によろしい。かなりの「志の輔ファミリーもの通」。
【タカシ】
決して主人公ではないけれど、必ず出てくる「タカシくん」。息子です。息子はいつもタカシくん。
『踊るふぁっくす』『ディア・ファミリー』では2年連続登場。常連の貫禄も十分。
けっこうナイスな発言が多く、ストーリーの舵取りのような役目をすることも・・・。
2002年の『ゆのみ』では、タカシくんの結婚話も浮上しておりました。
・・・ってことは、3年連続出演だわ!今年も出演するのか!タカシくん!・・・・ってなことも一つのお楽しみに。
【ナツミ】
そして、タカシくんほど全面で活躍はしないんだけど、娘の「ナツミちゃん」。
けっしておしゃべりではないけれど、その寡黙な存在感をひしひしと感じるナツミちゃん。通好みのキャラって感じ?
兄のタカシと元気な母がワーワーやっている間、「ナツミちゃんの気配を捜す」ってのは、かーなーりーの高度な技ですが、「多分、我関せず、とTVでも見ているんだろう」とか「母親の顔を『私もこんなになるのかしら』と感慨深げに見つめているんだろう」などと想像し、それがハマると、なんだか無性に可笑しくなって、一人で笑い出してしまうので、注意も必要です。
さてさて、「ファミリーもの」の向こうを張る流れが「町内もの」。
『踊るふぁっくす』『ガラガラ』『バス・ストップ』『しかばねの行方』『ランナーズハイ』『買い物ぶぎ』などは、商店街を含めたご町内の噺。
同じ町内、同じ商店街・・・という設定を決めているわけではないと思うけれども、
コレが妙につながっていて、一つの町内の噺と思いながら聞くと、面白い!!
今までのところわかっているのは、この町は、【小杉】という地名があり(『バス・ストップ』)、最近都心への通勤圏内として住宅地が拡大しており(『しかばねの行方』)、昔ながらの商店街がけっこう頑張っている(『踊るふぁっくす』『ガラガラ』)
・・・そんな町。
商店街は【西口商店街】という地味な名前ながら、会長のアダチ靴店、吉田薬局、魚勝、八百義などの最強キャラがひしめいている、妙な底力を持った商店街です。
多分、『買い物ぶぎ』のドラッグストアもこの商店街に最近仲間入りしたと思われます。
この商店街の「熊さん・八っつぁん」は、「魚勝・八百義」のコンビ。これは決まり。
『バス・ストップ』でも『ガラガラ』でも、その仲の良さ(多分、幼なじみ)、ボケとツッコミの配分、申し分ないです。
まずは、魚勝と八百義の性格の把握をしておきましょう。
どっちかというと、魚勝がボケで、八百義がツッコミ。
でも、これは、この二人の間だけで通じることであって、他の人が入ると、完全に二人とも「ボケ」です。
「ファミリーもの」「町内もの」に分類されない独立した噺も、もちろんあります。
志の輔新作らくごの名作『バールのようなもの』『みどりの窓口』。
この2作と『親の顔』なんかは、高座にもよくかかるので、出会う確率高し。
そして、個人的に大好きな『忠臣ぐらっ』。これは、忠臣蔵で有名な赤穂浪士の噺。
「赤穂浪士だって、みんながみんな『吉良、討つべしっ!』と息巻いていたわけではあるまい・・・」という、とっても常識的な観点から、とっても人間的で、とっても普通な赤穂浪士の物語。
どの登場人物も、「普通が面白い」人ばかり。
志の輔新作らくごは、きちんと一つの世界があって、その世界を覗く望遠鏡のようなもの。
「この噺は、ここにズーム」「今年は、こっちに焦点を合わせて」といった風に、
一つ一つが完成された世界のようで、実はもっと大きな世界のほんの一部分。
そんな志の輔新作らくご界は、まだまだその全貌が明らかになっておりません。
2002年にやっと、噂の商店街の名前が判明したくらいなのだから。
一作品、一作品を、それぞれの心の白地図の上に載せて、毎年少しずつ色をつけていくのが、楽しみな世界です。
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