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05/12/20 新宿末広亭『品川女子学院高等部2年 総合学習の時間』
三谷潤一

「寄席」という漢字を読める小学生は少ない。
前の職場で熟字訓を教えていたときに一人も答えられなかった覚えがある。
正解を教えた後も怪訝そうな顔をされる。
「“ヨセ”って何?」落語とか漫才とか手品とかを見せてくれる所だよ、と説明するが納得された試しがない。
「落語って座布団取り合うやつ?」テレビの笑点の大喜利ね、あれに出ているのが落語家さんだけど、あそこでやっているのは落語じゃない、と話していても手応えがないので、「こんなんだよっ」と机に正座して一席やってみせる…という授業をやっていた。
素人芸だから、落語はつまらないという誤った認識をさせてしまったかもしれない。
いや、授業中にそんなことをやっていたから、塾勤めを続けられなくなってしまったのかもしれない、という方にまず気持ちがいくべきか。始めから話は脱線しているが、東京に住んでいて寄席の存在を知ってはいても、実際に行ったことはないという人の方が(いくら「落語ブーム」の昨今とはいえ)圧倒的多数だろう。
その寄席で品川女子学院が「総合学習の時間」の授業を実施する、という。
出演者を聞いて驚いた。柳家権太楼一門。
権太楼師匠といえば、週刊文春のコラムに載った「2005落語家ランキング」で堂々3位に入っている大看板の一人。
独演会のチケットは入手困難。そんな師匠の噺が落語初体験となる「総合学習の時間」というのは何とも贅沢な企画だ。
しかも、都内に4つある定席(毎日休みなく開いている寄席)のひとつ、新宿末広亭で聴ける、とのこと。考えた人のセンスが光る。
品川女子学院は進境著しい中高一貫の私立女子校で、名前をご存知なくても、制服ならご覧になっている、という人は少なくない筈だ。
遠目にも目立つキャメル色のスーツジャケットに青いチェック(中学部は赤)のスカートは人気が高い。
女優の広末涼子さんが通っていた学校の制服、といえばぴんとくる人もいるかもしれない。
品川女子学院の総合学習の時間は学年によって内容が異なり、この日、中等部では教科イチオシ施設見学会、高1は企業経営シミュレーションを実施。
そして、高2は「和の心を知る総合学習の時間」。
冬休みを間近に控えた師走の朝、およそ200人の生徒たちが新宿末広亭に集合。
まだ吐く息が白い午前8時40分に入口のシャッターが開き、制服姿の高校2年生たちが古風な雰囲気の木造建築におそるおそる足を踏み入れる。
中に入った生徒たちから歓声がもれる。都心にあって、醸し出す昔ながらの風情を感じてのことだろう。
名人上手と呼ばれた落語家、漫才師が高座に上がり、客席を沸かせてきた空間に染み付いた「気」というものが寄席にはある。
新しい建物はぴかぴかしてきれいだが、どこかよそよそしい。
服にしても道具にしても良いものは使い込むうちに味が出てくる。建物も同じで、長い間、同じ目的で使われてきた空間では独特の雰囲気が醸し出される。それを「気」と呼んでいるだけで、霊気や超能力といった類のものではない。
昨今の新校舎を有難がる向きには理解されないだろうが、歴史のある校舎には伝統の重みを感じさせる「気」が満ちている。そこで学び暮らした生徒や先生方の息遣いに長い年月、馴染んできた建物にしか出せないもの。
「気」を失うのは簡単だが、育てるまでには大変な年月がかかる。
「学校寄席」というものがある。あちらこちらの学校で体育館や講堂を会場に、落語家・漫才師らを呼んで生徒たちに古典芸能を見せよう、という企画だ。本物に触れさせようということなのだろうが、学校の体育館や講堂と寄席とでは建物の「気」が違う。本物の「寄席」で落語を聴くというのとは別物だろう。
新宿末広亭で落語を聴く、という企画を聞いたとき、行ってみたいと思ったのもそのためだ。
プロの芸人さん達のホームグラウンドで生の芸に触れたとき、高校生たちは一体どんな反応をするのか?芸人さん達はどんな芸を見せるのか?そのとき、どんな空間が生まれるのか?興味は尽きない。無理を言って、取材させて頂くことにした。
椅子席と両脇の桟敷席は生徒たちでいっぱいになり、先生方と留学生たちが二階席に上がる。一階席がいっぱいにならなければ二階席が開くことはない。昨今の落語ブームのせいでお客は増えていると聞くが、珍しいことに変わりはないだろう。
初めての企画ということもあってか漆校長先生もお見えになっていた。総合学習の時間には生徒たちが出かけている場所のどこかに必ず校長自ら出向かれるのだそうだ。気づいた生徒たちが嬉しそうに手を振ると、にこやかに手を振り返されていた。在校生・卒業生を「品川ファミリー」とお呼びになる校長先生らしい。学校の家庭的な雰囲気が垣間見える。
開演五分前のお囃子が鳴り、場内が少しずつ静かになる。学年主任の先生が「今日は一緒に楽しみましょう」と挨拶。「静かに」とか「私語を慎むように」とか「ケータイの電源をお切り下さい」ということは一切おっしゃらなかった。マナーは一般客より上かもしれない。幕が上がり、和服姿の権太楼師匠がいつものお囃子に乗って登場。
「寄席に来たことがある人は?」反応がない客席を見渡し「誰もいないのね」と苦笑い。
寄席について、落語についての簡単な解説。扇子と手拭の使い方を説明しながら蕎麦を手繰る仕草や焼き芋を食べる仕草にどよめきが起こる。
今、乗りに乗っている師匠の芸だけに、当然といえば当然だが、高校2年といえば斜に構えていてもおかしくないのに、実に反応が素直だ。
落語家には、前座・二つ目・真打という身分制度があること。寄席というところは、毎日昼の部と夜の部とがあり、大体4時間くらいの間に落語や漫才、曲芸などが演じられる。開始間もない時間には前座・二つ目の若手、終盤に近づくと真打と呼ばれるベテランの芸人がご機嫌を伺う。
「今日は短い間ですが、そういう普段の寄席の流れに従って進めていきます。楽しくいきましょう。」 と言って師匠は下がっていった。
この日の演者と演目を挙げておく。
解説           柳家権太楼
「転失気」        柳家ごん坊(前座)
「元犬」     古今亭志ん太(二つ目)
「桃太郎」        柳家太助(二つ目)
「そば清」と南京玉すだれ 柳家一九(真打)
太神楽          翁家和助
「町内の若い衆」     柳家権太楼(真打・理事)
前座のごん坊の滑稽話。小僧が両手を振り回す仕草で笑いが起こる。「笑おう」「笑ってあげよう」としている感じが漂う。
「転失気」という言葉の謎が解けるまでの前半は笑いが少ない噺だが、生徒たちが熱心に聴いていたので後半はよく笑いが起きていた。ごん坊も気分が良かったに違いない。
二つ目の志ん太は「これ以上良い男は出ません、(TOKIOの)長瀬も出ません」と言って笑いを誘う。
「『笑点』に出ている木久蔵師匠としょっちゅう楽屋でご一緒するんですが…」と話したとき、「へぇ〜」と感心したような声が漏れた。
テレビに出ている有名人と一緒、というだけで高校生は尊敬してくれる。いや、世間一般的にテレビに出た、というのはステイタスなのだろう。
品川女子学院という学校もよくテレビに出ている、というイメージがあるのだが、反応の大きさに少し面食らう。「元犬」は犬が人間に生まれ変わる噺。志ん太の明るい芸風に合っていて、笑いがよく起きていた。
同じく二つ目の太助は「今日、みなさんの前でこうしてお喋りが出来ることを楽しみにしていました」とご機嫌を伺う。そこまでは順調だった。ところが、落語家さんが自分を低めて笑いを取る手法に客席の高校生たちが引いてしまった。これから社会で活躍しようという彼女たちには卑屈に聞こえたのかもしれない。笑い易いように、そう演じているだけなのになあ。その辺りは理解されなかったらしく、ちょっと残念。
いよいよ真打登場。それまでの若手は女子高生たちに笑って貰おうと努力する姿勢が見えたが、「そうは媚を売ったりしないよ」とばかりに淡々とした高座の一九師匠。「そば清」の下げに笑いが少ないと感じたのか一呼吸置いて、「消化薬かと思ったら、人間を溶かす葉っぱだったんですね」と解説。
「あー」と納得する声と笑いと拍手。私の隣で長谷副教頭先生が「国語の教員としては、解説されないとわからない生徒たちではない筈なのに納得がいかない」と呟いていらした。
いや、この噺は普段の寄席でも解説しています。面白い下げだけど、わかりにくいんですね。そのまま、南京玉すだれへ。今回の企画者でもいらっしゃる田中先生が高座に上げられ、一九師匠の指導で一緒に南京玉すだれを様々な形に変えては元に戻していく。落語家さんは落語だけでなく、こういう芸もやりますよ、という一面の紹介にもなっていた。
続いて和助による太神楽。口に咥えたばちの上の鞠を転がさないように障害物を乗り越える、傘の上でいろいろなものを回す曲芸、皿回し等々。これが、大変な盛り上がり方でありました。包丁をいくつも使った皿回しの時には悲鳴と歓声と拍手が響き渡り、後ろの留学生が“Dangerous !”と呟きながら、盛んに携帯電話のカメラで照準を合わせていた。あんなにウケてる和助を普段の寄席で見たことがない。あまりお目にかかれない曲芸も混ざっていたが、それにしても客席の盛り上がり方は凄かった。
興奮冷めやらぬといった空気の中、お目当て権太楼師匠の登場。
海外公演のときのエピソードを枕に話すと、英語絡みの話だったせいかよく笑う。
わあっと無理して大笑いするという感じではない。思い出し笑いが止まらないとでもいうような尾を引く笑い。本当におかしいとゲラゲラではなくクスクスと笑いが低く長く続くんだね、女子高生でも。真打と前座・二つ目ではこんなに笑いの質が違うんだな、と気づかされる笑い。客席の反応を見て、噺に入る。「この始まりは…え?まさか?」の『町内の若い衆』。
寄席は「大人の社交場」なんだよ、と教えてくれる一席。こんな噺を聴かせるなんてけしからん、って話になったら嫌だなあと思っていたら、校長先生は生徒たちと「面白かったね、楽しかったね」とおっしゃりながら帰っていかれたそうでありました。その後のアンケート結果でも寄席初体験はかなり好評だったらしい。
一席を終えて、「これが寄席です。もう一度来てみようかな、と思っていただけたら嬉しいです」と権太楼師匠。生徒たちから花束が師匠に贈られ、幕。充実の二時間。
情報誌に載っていないところで、こんな朝早くから、こんな面白い企画があることを初めて知った。
寄席もさることながら品川女子学院の懐の深さをも実感。「本物に触れさせる」ということを教育目標のひとつに掲げていることは知っていたが、歌舞伎や演劇ばかりかと思っていた。
新宿末広亭のホームページを調べたら、早朝貸切寄席の案内が載っていた。
人数は限られるが、他の学校でもぜひやって欲しい。できれば、その場に居合わせたい。

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