●2012/8/24 原宿クエストホール
「イッセー尾形のこれからの生活2012IN真夏のクエスト」
岡町高弥
あの、イッセー尾形が長期休養に入るという。
俺にとってイッセー尾形のライブは正月や夏休みと同じように生活の一部であった。
年3回、クエストホールでイッセー尾形に出会える、これが楽しみだった。
充電前のラストライブをこの目に焼き付けようと8月24日、クエストホールに駆けつける。
会場でクミコさんや志の輔師匠と挨拶する。
やはり、ラストライブなのだろうか
いきなり、「床屋さん」から幕があく。
白いもみあげ、いかつい頭。
「あいつはどこにいくだかあ」
といって床屋の窓から町の住民を観察する。
「スペイン人を妻にもらったのか、あの息子は」
とゴシップ話に余念がない。
暗転後、いつものようにイッセー尾形が着替えると突然、
「あの、床屋さんは魚津のイメージなんです。魚津は誰も歩いていないんですよ」
といって芝居の解説を始める。
なるほど、そうだったのかと皆、得心がいく。
「植物園」ではスケッチブック片手にスケッチはしないのに
「ヨーロッパの木は違うね。酸素が違うね」
と言ってやたらにテンションの高いどこにでもいそうなおばちゃんを嬉々として演じる。
当然、場内大爆笑なのだが、終わってイッセー尾形が一言、
「まんまです。あのまんま札幌植物園で見た風景です」
と言って、さらに笑いが起こる。
イッセー尾形が日常生活を見てひとりコントに作り上げた過程が
まるで、手品の種明かしよろしく理解できる。
イッセーの解説がまた素晴らしくうまいのだ。
この日の白眉は、孫のために白鳥になりきって渡り鳥を呼び寄せるじいいさんであろう。
左は沼、前からは熊が出るかもしれない中で孫のために白鳥の羽をつけて、
ブーブーとラッパを吹いては鳥をおびき寄せる。
ほれほれと勢い余ってなんと沼に落ちる。
この時、イッセー尾形はなんと、舞台を跳んだのだ。
20年以上、イッセーの舞台を見ているが、あんなに激しく跳んだのは初めて見た。
還暦を迎える芸人の跳び方とは思えない激しい跳び方だった。
しかも2回も。
鬼気迫るじっちゃんに皆、圧倒される。
ラストはおなじみのウクレレを弾くホステス「ひとみちゃん」が登場してにぎやかに幕となる。
「しばらく休みますがまたお会いしましょうと」
とさわやかな挨拶。
そうか、イッセー尾形の第3幕が(第一幕はジァン・ジァン時代、
第二幕はクエストホール時代)始まろうとしているんだなと思うと胸がいっぱいになった。
はじめてイッセー尾形のひとりコントを観たのが大学生の頃、つまりは30年近く前だから、
ひたすら走ってきたのかと思うと目頭が熱くなった。
「イッセー尾形というジャンル」を切り開いたのだ。
まだ終わったわけではないが、ひとまず「お疲れ様でしたしばらく休憩しましょう」と言ってあげたい。
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