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05/4/30 STAR PINE’S CAFE
寒空はだかソロツアーin東京「トコナメの島セントレア」
shou_chong
年に二度行われるはだかさんのソロツアー。
東京の会場STAR PINE’S CAFEはおしゃれなはだかさんにぴったりのライブハウスで、私はここで拝見するはだかさんライブを一番楽しみにしています。
ソロライブで流す音楽は毎回ご本人が選曲なさるので、それを聴くのも楽しみの一つです。
今回の開演前音楽は主にミュージカルのスタンダードナンバーでした。
「’S WONDERFUL」「FUNNY FACE」「HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON?」etc.
個人的に好きな曲ばかりでとても嬉しかった。
開演音楽はいつものように「IRMA La DOUCE」。
次いでご本人が登場し、「寒空はだかのテーマソング」をにこやかに歌われる。
ソロライブでしか聴けないありがたい曲です。ありがたいけれど、歌詞はばかばかしくて愉快です。歌はもちろん、演奏のティンパニらしき音(デンドンデンドンデン……)から照明の光(ピカーン)まで一人で表現するのですから。照明の光り具合についても具体的な説明があり、これがまたばかばかしくてステキです。
ネタは新旧とりまぜていろいろ。
歴史あるネタも一部新しいアレンジが加わっているので、新鮮な気持ちで楽しめます。
全般的に内容は荒唐無稽、つくりは多重構造というネタが多いです。
文学の分野なら「不思議の国のアリス」、美術の分野ならルネ・マグリットの絵画のようなイメージ。はだかさんのネタを、他のものに例えること自体無理があるのですが、敢えて言えばそんな印象。なかなか奥が深いです。
だから、のりきれない人にはツマラナイと誤解されやすく、わかったつもりの人であっても表面だけしか見ていないことも多く損をしている場合もあります。
(これは自分のことも含めています。時間がたってから細かいしかけに気づくこともあるので。)
そして凝ったネタほどサラリと流されるので、気がつかない人は一生気がつかないということになります。
以前にも似たようなことを書いたような気がしますが、はだかさんのネタは、はだかさんだけを追いかけていても、絶対に十分に楽しめないつくりになっています。
「ウナギおやじの伝説」は大好きなネタです。
ジャズと落語を愛したおやじの生き方を歌ったすてきなナンバー。
当然ジャズ調です。日野晧正さん、坂田明さんまで登場する豪華さです。
いつもはこの歌だけなのですが、今回はプロローグというか、おやじのエピソードもありました。
ある落語のパクリ、ではなくカバーのようなお話。元ネタを知らなくとも、落語が下地にあることさえ知らなくとも、笑えるようにできていますが、知っていたほうが十倍は楽しいでしょうね。でも、そのことについてはだかさんは一言も説明はしません。そこが粋だと思います。
ジャズと落語を愛すると人、あるいはもう少し広義に解釈し、ジャズと笑いを愛する人と言えば、山下洋輔さん、中村誠一さん、坂田明さん、タモリさん、団しん也さん、筒井康隆さん、といった顔ぶれが頭に浮かびます。
このネタを拝見していると、そうした愛すべき表現者のみなさんをニコニコながめているはだかさんのイメージが浮かびます。
私の勝手なイメージなので、実際にはだかさんがこれらの方々に関心をお持ちなのかどうかはまったくわかりませんけれど。
高田渡さんのファンでいらっしゃるのは、ファンには周知の事実ですね。
「コーヒーブルース」を、いせやに行かなくちゃ♪、渡に会いに♪、なんて歌詞を変えて歌い、「北海道を旅していてね、気がついたらね、僕が湯に浮かんでいたんだね。湯灌(ゆかん)されていたんだね……冷(ひや)で飲んでおけばよかった……」(台詞の正確さは5割弱)
と落語のネタも織り交ぜて、渡さん風に話す。
「自転車に乗って」をはだかさんらしく歌う。
よけいなことは何も言わず、そうやって渡さんを偲ぶ。粋ですねえ。
お客さんはと言えば、渡さんを知らない人、なじみのない人、のほうがたぶん多かったと思います。わかる人にだけわかってもらえればいい、ということなのでしょう。
人や物に対する思い入れなんて、どんなに言葉を尽くしても伝わらない相手には伝わないのですから。
ご本人サイトの日記には「野暮を承知で、好きなことをやってしまった」と書いてありましたが、こんな機会はソロライブくらいしかないのですから、お客さんも歓迎してくれていると思いますけどね。
ほぼ一年前のライブで言えば「プカプカ」、「コーヒールンバ」、「Lioness Coffee Candy」をもじった「Loneliness Coffee
Candy」、を歌われたときも説明はいっさいなく、まことにかっこよろしかったです。
言葉を大事にするはだかさんは、言葉が持つ響き、語感にも敏感です。
「脱獄犯」は「ダツ・ゴク・ハン」という音だけで怖そうだ。ドイツ語のように固い響きがある。どこの国の言葉でも愛のささやきはやわらかい音なのに、「Ich
liebe dich.」(イッヒ・リーベ・ディッヒ)なんて言われたら殺されそうだ、という意味をこめて、降参するように両手をあげていらっしゃいました。
(余談ですが、私が個人的に音だけで怖そうだと感じる名詞は、論談同友会と弾劾裁判です。)
ネタではないのですが、言葉を大事にするはだかさんらしいエピソードを一つ。
ステージも半ばを過ぎた頃、靴紐がほどけかけてきたので、結びなおそうとしたはだかさん。
最初「靴紐がぬげそうだ」とおっしゃったのですが、すぐに「靴がぬげそうだ」と言いなおしていらっしゃいました。お客さんに聞かせるというよりは、「誤った言葉使いはいかん」とご自分に言い聞かせるように。
きっと言葉に対して誠実なはだかさんだからこそ、ああしたおもしろいネタが生まれるのでしょうね。
RCサクセションの「トランジスタラジオ」のカバーでは、はだかさん好みらしき芸人さんが次々に登場するのですが、ボンボンブラザースはおかしかったですねえ。マニアックだなあ。
「君の知らない」「聞いたことのない」というフレーズにぴったり。寄席、演芸場に足を運ばなければまずお目にかかれない、無言で芸を披露される曲芸の二人組ですからね。(それがスマートでかっこいいのよ。)
今回、ミュージシャンのゲストはピアニストの杉浦哲郎さん、ギタリストの清水富之さん。お二方ともはだかさんのアルバムに協力していらっしゃるので、息もぴったり。
短いけれど杉浦さんのソロコーナーもありました。
ヴァイオリニストの岡田鉄平さんとのアルバム「MAGICAL MYSTERY CLASSICS」に収録された曲をご披露。いわゆる冗談音楽、既成の曲のパロディなんですが、音楽としての完成度が高いので、オリジナルを知らない人(そんな人は赤ん坊くらいでしょうが)、が聞いても楽しめるようにできています。すばらしいことです。
歌のゲストはさねよしいさ子さん。
以前から生で歌声を拝聴したいと思っていたので、非常に嬉しかったです。
実年齢は存じ上げませんが(調べればわかるけれど、その気はなし)、永遠の少女のような方ですね。手になさるのなら、花束よりも色とりどりの水素入り風船が似合いそう。
はだかさんは「マルコじいさん」の替え歌が歌いたいばかりにゲストに呼んだ、なんておっしゃっていましたが、まあ、そんなことはないでしょう。
さねよしさん、はだかさんファンの心もがっちりつかんでいらっしゃいましたから。
とにかく、今回は盛りだくさんで楽しいソロライブでした。
できることならこのソロライブ、年二回といわず、年に四回、各季節ごとに開いてくださると嬉しいのですけどねえ。
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