馬車道おきらくシアターVol.8 
「楠美津香ひとりコント〜東京美人百景」
内幸町ホール「東西若手落語家コンペティション 2007」
内幸町ホール「東西若手落語家コンペティション 2007」
「寒空はだかカラフルロスタイムショーVOL.4 with
彦ちゃん&栗Q」
大阪・天満天神繁昌亭
「桂あやめ落語家25周年★五日のあやめ〜
一日三席相勤めます〜」
アルカイックホールオクト(大阪・尼崎)
「春風亭昇太独演会 オレスタイル」
しもきた空間リバティ「絹15セレクト シャラポワ寄席」
しもきた空間リバティ「絹15セレクト ヨージベストライブ」
桂あやめ落語家25周年★五日のあやめ〜一日三席相勤めます〜
長野県民文化会館「清水ミチコのお楽しみ会」
●しもきた空間リバティ「ヨージ単独ライブ」
しもきた空間リバティ「絹15セレクト ヨージ単独ライブ」
銀座みゆき館劇場「丸山おさむシークレットライブ至極の
なかの芸能小劇場「せめ達磨アパッチ vol.08」
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HIRO-PONソロ舞台公演「SEX, HIRO-PON,
まつもと市民芸術館「志の輔独演会」
なかの芸能小劇場 「ヨージ単独ライブ」
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両国シアターX
「マルセ太郎メモリアルシリーズVol.3花咲く家の物語2007」
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07/6/28 関内ホール・小ホール
馬車道おきらくシアターVol.8 「楠美津香ひとりコント〜東京美人百景」
shou_chong

美津香さんはね、セクシーNo.1なんですよ、私の中ではね。
カテゴリーは一応日本の舞台表現者、女子部門ということにしておきますが、普段海外の女性アーティストの舞台に触れる機会は少ないですから、実質上女子世界一位ですよ。
そして今のところ二位以下は存在せず。
(因みに男子部門の一位は趙博さんです。
こちらは海外に目を転じますと、同列一位の方が存在しますが、名前を挙げてもまずほとんどの方がご存じないと思いますのであっさり省略です。)

そんな私にとってはエベレストのような存在の美津香さん、現在はシェイクスピア作品を中心に舞台活動をなさっています。
コントをまとめて演じられるのは「うるう年に一回」という割合なのだとか。
ですから今回は非常に貴重な機会なのです。
これはなにをさておいても行かねばなりませんよ、美津香さんファンといたしましてはね。
と、出かけてまいりましたよ、友人のMさんと二人。
いやー、おもしろかった。
期待以上におもしろかった。
チケットが発売開始数分で売り切れる人気公演と比べても、まったく遜色ありませんよ。
なのに客の入りは約半分とはこれいかに。
ああ、もったいない。
実にもったいない。
こんなにおもしろい公演見逃すなんて、皆さんどうかしてますよ。
「おいでになった皆様のご多幸と、おいでにならなかった皆様のご不幸をお祈りして…」
という噺家さんの決まり文句を言いたくなるくらいのものですよ。
チケットの売れ具合と舞台のおもしろさには、必ずしも相関関係があるわけではない。
これは紛れもない事実でありまして、実際そのよい例も悪い例も経験しておりますが、それにしても世の中矛盾してますねえ。
美津香さんほどの舞台人は、もっと認められてしかるべきなのに。
ああ、演芸の世界ってほんと不公平。
(演芸だけじゃないだろうけど。)
と、文句ばかり言っていてもしかたないので、具体的な感想に移りますよ。
(ネタバレが嫌な方とは、ここでおわかれです。)

■3LDK主婦
自宅のテレビ、電話、ガス管、水道管、壁、畳、の修理、修繕を依頼していた主婦。
何ヶ月もの間待ちぼうけをくわされていたが、なぜか同じ日に修理人、職人が次々とやってきて…
こういう設定の場合、狭い家の中に人があふれ、修理人、職人同士でトラブルが起きて大混乱のドタバタ劇に発展、なんて想像をしがちですが(え、私だけですか?)、美津香さん作品はそんな陳腐な展開にはならないのです。
この話の主人公はあくまでも3LDK主婦なんですから。
全てを牛耳っているのは彼女なんです。
なにかと理由をつけて逃げ出そうとする修理人、職人たちを実力行使で引き止めます。
その行動は次第にエスカレートし、ついには警察まで出動する事態に。
荒唐無稽な話ではありますが(美津香さんの作品はたいていそうですけど)、とにかくスピーディーにテンポよく展開していくので、「そんなバカな」なんて突っ込む暇もなく、ただただ次はどうなるのかという期待がどんどん膨らんで、何度見ても(過去に一度拝見したことがあります)決して飽きることがありません。
スポーツ観戦をしているような爽快感があります。
リアリティというのは、現実にありそうな話をなぞれば出てくるものではないのだと、つくづく思います。

■かちかち山
御伽噺って意外に残酷なものが多いけれど、この話もその例に漏れませんね。
美津香さん版かちかち山はさらにブラックなんですよ。
なにしろ、まともな登場人物&動物は皆無なんですから。
おじいさんは金の亡者だし、たぬきさんは「ど腐れ外道のたぬきさん」だし、おばあさんも自分本位なコマダム(死語?)みたいだし、うさぎさんは表の顔はテキヤの親分、裏の顔は必殺仕置人だし、だれがどんな目にあおうとあまり同情する気になれません。
この話を美津香さんは、お嬢さんが幼稚園に通っていた頃、お嬢さんのクラスメートとそのお母さんが集うクリスマス会でなさったそうです。
ご本人によれば、その時はもう少し穏やかな話だったそうですが。
それにしても、あっけにとられていたり、泣き出しそうな子がほとんどだったみたいですから、あまり大差なかったんじゃないかなあ。
(大笑いしていた子が二人いたそうですが、その子たちは将来大物になるかもしれませんね。)
例えば、自分がたぬき汁だと思って食べたのは、実はたぬきさんが料理したおばあさん汁だったことを、おばあさんに化けていたたぬきさんから聞かされ、嘆き悲しんだおじいさん。
うさぎさんに
「たぬきさんに、サ●ワ君にされてしまったよ〜!」
と訴えたりするんです。
で、話の合間には、美津香さんは
「よい子のみなさんは、○○の意味がわからなかったら、お家に帰ってお母さん(または、お父さん)に聞きましょう」
とおっしゃるのですが、このシーンについては、
「よい子のみなさんは、カンニバルの意味がわからなかったら、お父さんに聞きましょう。きっと教えてくれますよ」
なんてコメントされるのです。
ほかには、
「よい子のみなさんは、自分で相手を始末してはいけませんよ。ちゃんと専門家に頼みましょう。お金はかかりますが。そうすれば捕まることはありません」
(台詞再現率5割以下)
なんてこともおっしゃいます。
(専門家に頼んだことがばれれば捕まりますけどね。)
まあ、こんな具合で、美津香さん版かちかち山は、胸のすくような残酷シーンの連続、そして痛快無比なブラックコメント満載の素敵なお話なんです。
これを幼児のために、それもクリスマス会でなさる美津香さんのセンスに痺れます。
喜んでいたのは主にお母さん方だったそうですけどね。

しかし、この話は単純な残酷物語ではありません。
不謹慎な話をしただけでは、人を楽しませることはできませんからね。
不道徳的、非人道的、反社会的な出来事なら、昨今のニュースでいくらでも目にできますが、それらは胸のすくようなではなく、胸が悪くなるような残酷な話にすぎません。
残酷な話をそのまま伝えても、ブラックジョークにはなりえません。
一見残酷な話をブラックな笑いに転化するのって、本当は非常に難しいことだと思うのです。
表現する側からすれば、かなり怖い、スリルのある作業ではないかと。
それだけに成功した時は快感なのでしょうが。
それは受け止める側も同じですけどね。

美津香さんのかちかち山は感傷とは無縁の世界です。
ドライな感覚に満ちています。
似非人道主義などつけいる隙はありません。
全てを突き抜けたところに、乾いたブラックユーモア超然として存在している。
それがとても美しくてかっこいいのです。
ネタのアクセントにブラックジョークを取り入れるだけならともかく、全編この調子で貫き通し、観客を楽しませるのは至難の業でしょう。
下手に真似をしたら、それこそたぬきさんのように火傷してしまうでしょう。
美津香さんはきっと超人的な笑いの基礎体力をお持ちなのですよ。
そうでなければ、こんな話はできません。

■軽井沢夫人
以前、「絹」で拝見したことがあるネタですが、あれはショートバージョンだったのですね。
今回は、おそらく本来のロングバージョン、軽井沢婦人の世界をたっぷり堪能させていただきました。
水色の地に花柄の着物を涼しげに品よく着こなした軽井沢夫人。
日傘をさし、ケースに納めたヴァイオリンを手に家の近所を散歩します。
しかし、その内面は見た目のしとやかさとは正反対、まるで別人のよう。
心の赴くままに行動し、己の欲求に忠実に生きています。
彼女の辞書にタブーという言葉はありません。
宗教の勧誘をする相手にも臆せずものを言います。
エ●バの証人を「ヴェニスの商人」と関連づけてとらえ、エ●バという物を売る商人だと思い、トンチンカンな返答をします。
が、時々、本質を突いた発言をして、観客の日ごろの鬱憤を大いに晴らしてくれたりします。
ケースから気まぐれに取り出したヴァイオリンで奏でるチャルダッシュは圧巻でした!
メロディ、リズムのはずれ具合が絶妙。
しかし、初めてヴァイオリンを手にしたのでは、まともな音を出すことさえ不可能なはずです。
チャルダッシュであるということがギリギリわかる程度に弾けるということは、ある程度の年月は習ったということなのです。
基礎があるから崩せるのです。
そして、それを笑いに変えられるのです。
ただのオフザケではないのです。
これは、軽井沢夫人という作品全体に言えることでもありますけどね。
とにかくね、軽井沢夫人の言動が、知性から狂気へ飛ぶ、その飛躍度がすばらしいのです。
並みの高さではない。
一足飛びに飛ぶ感覚がとても気持ちいい、すごい快感です。
ペコちゃん(大田スセリさん)の作品にも日常から外れた感覚を楽しむ作品がありますが(と勝手に断定していいものかどうかわかりませんが、あくまで私の感想なので、皆さまの感想と違っていても、そのへんはご容赦ください。)、あちらは、アルコール、お酒に酔っている感覚。
美津香さんの作品は、クスリ、麻薬で完全にいってしまった、俗に言うラリってる感覚。
飛び方が違います。
どちらの作品がすぐれている、という話ではなく、タイプが違うということです。
それに、私はアルコールにもクスリにも無縁の人間ですからね。
しつこいようですが、これは感覚的な話ですよ、もちろん。
この作品はファンの間ではとても人気があり、以前美津香さんがジァンジァンでコントライブをなさっていたころ、「軽井沢夫人だけは毎回やってください」という要望が多かったのだそうです。
やっぱりね、この麻薬的な魅力にはだれも抵抗できませんよね。

■全体的感想
この他に、フォークソング同好会の女子高生の話と、逆ストリップ(石川さゆりの「鴎という名の酒場」をかけている間に着物を着るという芸)を拝見しました。
どちらもおもしろかったです。
ご覧になりたい方は、次の機会を待ちましょう。
私もね、全作品について説明するほどお人よしじゃないのですよ。
(書くことに疲れただけ、という説もあり。)

美津香さんの作品を拝見していると、いろんな快感を覚えます。
3LDK主婦の感想では、スポーツ観戦をしているような爽快感と書きましたが、視覚的な意味だけにとどまらず、もっと踏み込んだ触覚を刺激されるような感覚も覚えます。
というのも、作品の中のポイントとなる言葉が私の心に届いたとき、胸にズシンと響くような重量感を感じたからです。
それは、一般的には「うけた」という場面なのでしょうが、美津香さん作品では単におもしろい、おかしいだけでは終わらない、直に身体に訴えかけてくるような力強さを感じるのです。
美津香さんの繰り出すストレートなパンチが、的を外さずにピタリと決まる、そんな感じを受けるのです。
そのスピードのある鋭いパンチが上演中常時びゅんびゅん飛んできて、それを自分の胸でばしばし受け止める。
それが、ものすごい快感なんです。
詩のボクシング、というコンテストがありますが、美津香さんの舞台は笑いのボクシングですね。
観客(私)にすれば、美津香さんの言葉を確かに受け止めたという、痛みにも似た確かな感覚が非常に心地よいのです。
さらに言えば、美津香さんの言葉が心に届いた時、力強いパンチを感じるのと同時に、自分自身も笑いながら不愉快な出来事を殴り倒しているような快感も覚えるのです。
私だけかもしれませんけど。
実際、軽井沢夫人の中で、美津香さんが「おまえの頭のハエをおえ!」と言いながらパンチを繰り出した時には、非常な快感を覚えましたねえ。
これは美津香さんならでは、ほかの表現者の舞台では味わえない感覚です。

さらなる快感は、軽井沢夫人の感想でも触れましたが、知性と狂気の往復に伴うものです。
美津香さんの作品は、圧倒的な揺るぎのない知性という土台の上に成り立っていると思います。
その上で狂気という高みに飛躍している。
その落差が非常に激しい。
だから、まるでジェットコースターに乗っているような快感を味わえます。
しかも、このジェットコースターは、論理的思考という極めて頑丈な骨組みの上に敷かれたレールの上を走っていますから、ふわふわと横揺れしたり、ネジが飛んでしまうような心配はいっさいありません。
上下運動はしても、欠陥品に特有の不安定さはないのです。
知性や論理的思考を欠いたジェットコースターは、土台も骨組みも脆弱にできていますから、ただ気持ちが悪くなるばかりで快感は得られません。
そこが、本物(=美津香さん作品)と偽物の違いでしょう。
「狂気を演じられるのは知性である」とは、たしか山城新伍さんのお言葉ですが、美津香さんの舞台を拝見していると、まさにそのとおりだなあと思います。

そして、お終いに、これは快感と言うより感動に近い感覚なのですが、美津香さんが発する言葉の確かさに私は深く感じ入るのです。
美津香さん作品を美津香さんが表現される時、言葉の一つ一つに確かな力を感じるのです。
話のポイントとなる笑いを誘う言葉だけでなく、全ての言葉が確実に心に届くのです。
狂気を帯びた台詞、荒唐無稽の話にもリアリティを感じるのです。
つまりは、美津香さんに演技力があるから、と言えばそうなのですが、単純にそう言い切れない何かが美津香さんの言葉にはある気がします。
それは、美津香さんが本来備えていらっしゃるパワーに加え、美津香さんがこれまでに培ってこられたもの(すなわちアニマル浜口ジムでトレーニングをされたり、シェイクスピア作品を数多く演じられることで身につけられたもの)が、大きく作用した結果なのではないかと私は思っています。

おそらく、美津香さんの言葉は、美津香さんの持つ真実に裏打ちされているのです。
だから、どんなに現実離れした話であろうと、本物の匂いがする、確かな味わいがあるのです。
美津香さんの作品は、笑うはなから忘れられ、安っぽく消費されていくような刹那的なコントではありません。
笑いながら強い印象を受け、確実に心の底に残る中身の濃い傑作です。
ごく一部の人だけで楽しむには、しつこいようですがもったいなさすぎます。
ですから、もっと多くの皆がこれらの作品を見ることを強く希望します。
(なぜに、お終いにきて、某国陛下風?)

 

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