●008/11/2. 西荻窪サンジャック「柴草玲ワンマンライブ」
めぐりん
西荻窪の小さなビストロで行われた柴草玲さんのワンマンライブ。
ほんとうに小さな店で、お店のスペースの半分はグランドピアノ。
のこりの半分に30人分の席がぎっしりと。
受付を済ませてドリンクを注文すると、サービスで渡された小さなサンドイッチが仕事帰り直行だったお腹に嬉しい。
玲さんファンは律儀な方が多いのか、開演は19:30からなのに開場の18:30にはほとんど全員来ていた。
完全予約制なのにこれにはびっくり。
さて、時間になって玲さんはどこから出てくるのかな?と思いきや、お店の入り口がガラガラと遠慮がちに開い
て、まるでお客さんのように入ってきた。
緑のベレーにチェックのスカート。オリーブ少女的スタイルは玲さん本来のファッション。
最近、何かのキャラになりきってのステージが続いていだが、この日はひさびさの「素」の状態でのライブだそうで、サングラスをはずす勇気が出ないとのこと。
かけっぱなしで唄い始める「しもつかれ」。
小さな店内が、あっというまにしなやかで力強いピアノの音に満たされる。音に包まれる快感。
「しもつかれ」は栃木県の郷土料理だが、あえて味に言及せず素材の名前を並べ、
「ばあちゃんの意地、じいちゃんの技、父ちゃんのウソ、母ちゃんの涙・・・」
と続ける発想が秀逸。
「しもつかれ」に限らない「郷土料理」という存在の持つ光と影を見事に唄いこんでいる・・・というのは深読みしすぎかな。
遠距離恋愛を唄う「PS」、ミステリアスな男女のエピソード「ヒガンバナ」の後、近所のラーメン屋で見た客
と店員の攻防を演歌っぽく「どっちがショボいかな」、病院の待合室での老女と受付の人の押し問答をドラマチ
ックなピアノで綴る「クリニック」とシームレスに続く。
このシリアスとコミカルの境目のない感じが、柴草玲さんの持ち味。
恋愛の唄のときもネタっぽい唄のときも、別に何も切り替わらない。
常に柴草玲は柴草玲のままである。
客と妙な駆け引きをせず、ことさらに一体感を強要しない。
そこに表現する者とそれを観る者との心地よい距離感が生まれる。
第一部の最後は「あんたの冷や汁」。
世良正則「あんたのバラード」をリスペクトした曲。
畳の上で、男の作った冷や汁を思い出しながら弱っていく女。
愛と憎しみは単純に裏表ではないんだな、と感じさせる柴草玲流のブルース。
第二部も同様、コミカル、シリアスをランダムに、まるで思いつくままに弾いているかのよう。
新曲「たたみちゃんのテーマNo5」は明るい自虐ソング。
「たたみちゃん」というのは玲さんが自分につけているニックネーム。
畳の上でうたた寝すると、顔に跡がついてなかなか取れないのを自嘲的に呼んだのが発端。
歌詞は玲さんのBLOGに載っているのでご確認下さい。
「よんじゅっさいのおんなのこ」というフレーズ、深い。
玲さんは自分のことを「熟女」ならぬ「熟乙女」と呼んでいたりするのだが、『乙女』だから傷つくのだ。
自分の年齢にも、肉体の衰えにも。この心と体の年齢の齟齬、わかるなあ・・・。
ロマンチックな「7月5日、月食」、失われた恋の傷への鎮魂歌「レクイエム」と自然に流れて、ラストは待ってました!「さげまんのタンゴ」。
自分のさげまんぶりをアコーディオンで弾き語る、玲さんのライブではおなじみの曲。
途中に入るセリフが毎回違うのだが、今回はまとめると「いままでは愛し合った相手でないと下がらなかったのだが、最近はリスペクトすると相手の運気が下がるようになってしまい、世良正則さんが追突事故に遭ってしまった。ごめんなさい。さげまん力を遠隔操作できるようになってしまったらしい。この力で大嫌いな×××××××(個人名なので自主規制)を下げたいが、リスペクトできないと下がらない。でも×××××××は愛せない。非常に残念です。」というような話だった。
最後は「でも私は待っているのです。白馬に乗った『下がらない男』を。いや、別に白馬に乗っていなくてもいい。」と結ぶ熟乙女心。
アンコールは「ホテルおぎくぼ」・・・ラブホテルをモチーフにして、こんなさりげなく切ない唄を作れる人もなかなかいない。
そして「ゴルゴ13の歌」・・・柴草玲ワールドを象徴する代表曲かも。
ハードボイルドって死語に近いけど、こんな時代だからこそ心にとめたい言葉である。
笑っちゃうけど切なくて、ドライだけどウェットで、まじめだけどお茶目で、まぬけだけど繊細で。
そんな多様な要素がぜんぶ1人の女の人の中に、矛盾無く共存している柴草玲さん、まったくもって魅力的な表現者であります。
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