●2016/12/8.木 立川シネシティ「この世界の片隅に/こうの史代原作、片渕須直監督」
岡町高弥
映画を見終わってしばらく席を立てない。気がつけば途中から涙が止まらない。そんな映画体験は生涯に何本もあるもんじゃない。
すでに評判の「この世界の片隅に」(こうの史代原作、片渕須直監督)をようやく12月8日立川シネシティで見ることができた。レイトショーにも拘らずかかわらず満員、どんどん観客動員数が伸びているのもうなずける。映画の力、アニメ映画の説得力をまざまざと見せつけられた近年まれに見る掛け値なしの傑作。とにかく何を差し置いても劇場に走れといいたい。
映画は昭和8年、広島市内の江波に住む少女浦野すずが成長し、やがて18歳で呉に嫁ぎ、北條すずになって戦争が日常生活に変わり、やがて敗戦を迎えるまでの12年間を丹念に描いていく。
まずなんと言っても、のんこと能年玲奈の声が圧倒的に素晴らしい。のんの声がすずに憑依し映画に生命力を与えている。のんの声に導かれて見るものは、昭和8年の広島の世界にすっと入っていける。
とにかく見てほしいので詳細は記さないが、広島、呉の戦時中の日常生活が克明に描写されている。アニメ映画というよりもドキュメンタリーを見ている感覚に近い。
戦争とは日常生活が突然奪われていく理不尽さに尽きるが、それでも生きていかねばならない世界が残る。喪失感とそれを丸ごと包み込む風景。この映画にはそのすべてが愛おしく、残酷に刻印されている。
映画のエンディングは希望に満ちている。
「ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて」というのんの言葉にただただうちのめされた。
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