●2016/11/4.金 シアタートラム
「劇団チョコレートケーキ/治天ノ君/脚本・古川健、演出・日澤雄介」
岡町高弥
歴史から抹殺された大正天皇を通じて近代史を読み返そうとする野心作。
2013年初演に大いに話題になった作品だ。今また、今上天皇の「生前退位」が絡んで偶然にも今日的な芝居になった。芝居を打つというのはやはり時代とシンクロせざるを得ない。
闇の中から真っ赤な菊の御紋を背負った玉座が現れる。舞台は玉座と赤い絨毯のみ。この芝居は玉座をめぐる密室劇でもある。
幼い頃から病弱で常に明治天皇(谷仲啓輔)の影に怯え、即位してからも障害を抱えながら執務をこなす大正天皇嘉仁(西尾友樹)。
物語は大正天皇のお妃になった貞明皇后節子(松本紀保)の回想で進められていく。新しい天皇になるべく有栖川宮威仁(菊池豪)を指南役に迎え、やがて全国行啓とともに健康になっていく。
しかし、天皇の権威を重んじる明治天皇と息子裕仁(浅井伸治)との関係は悪化していく。大隈重信(佐瀬弘幸)、原敬(青木シシャモ)など大正天皇とともに新しい日本を作ろうとする政治家も現れるが、脳の病が再発する。重度の言語障害と日常生活もままならない中、裕仁と宮内大臣・牧野伸顕(吉田テツタ)は、裕仁を摂政にと奔走する。やがて原敬は凶弾に倒れ、大正天皇は失意の中で歴史に埋没する。度重なる宮内庁の「大正天皇の病状発表」は「暗愚」「脳病」であることを決定づける。侍従武官・四竈孝輔(岡本篤)は、その発表に怒りを露にする。大正時代をなかったものにし、明治時代を必要以上に讃え11月3日を明治節として露骨に祝おうとする摂政裕仁と牧野の姿はどこか現在に通じるものがある。この芝居は古川のフィクションであり、古川の解釈した大正天皇像を芝居として作り上げた。役者は皆淀みなく渾身の芝居をしていた。勇気ある力作であり、芝居の可能性を広げた近年稀にみる快作であった。
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