●2015/6/20.シアタークリエ「おもろい女」
岡町高弥
森光子の「放浪記」と並ぶ代表作「おもろい女」を誰が演じるのかと思っていたら、藤山直美がやるという。藤山直美の天賦の才能をいまだ十分に活かしきれていない公演が多いと思っていただけに、このキャスティングには心動いた。
6月20日、藤山直美版「おもろい女」(作・小野田勇、潤色演出・田村孝裕)を見るためシアタークリエへ。
「おもろい女」は36歳で亡くなった天才漫才師ミス・ワカナの生涯を描いた作品だ。
15歳で島根から大阪にやってきて、安来節のモノマネ踊りでチャンスをつかむ。
最初の相方(小宮孝泰)を捨て楽士玉松一郎(渡辺いっけい)と出会うまで痛快なテンポで昭和初期を駆け抜けていく。とりわけ異国青島のどん底時代、重い腎臓病で倒れた一郎を支え新しい漫才を確立するまでのくだりは見事だ。
藤山直美の切れ味抜群の喋りと体当たりの芝居を存分に堪能できる。
日本に戻って漫才作家秋田實(田山涼成)と再会しワカナ一郎で快進撃を続け「わらわし隊」として戦地慰問に赴く。
その際、出会った心優しい飯塚部隊長(石山雄大)との思い出は、ラジオ番組になって放送され即興漫才として人々の涙を誘う。
しかし、この芝居はただの芸人成功物語では終わらない。
ワカナは一郎を捨て新劇役者と不倫に落ち、落ちぶれた芸人を冷たくあしらう。そして戦争で足を失った弟子との別れが。
ミス・ワカナの業ともいうべき影の面をしっかり見せて物語に厚味を持たせる。
戦後、これからという矢先にヒロポン中毒で倒れてあっけなくこの世を去る。薬を打って苦しみ抜いた挙句、息を引き取り幕切となる展開は商業演劇の枠に収まらないスケールの大きさを感じさせる。
ドキュメンタリーフィルムをふんだんに使い戦争のリアリティーを刻み込んだ演出も上手い。
喋ってよし歌って踊って動いてよしの藤山直美、自由奔放な芝居よりある種の型に挑んだ時の方が凄みを増す。オリジナルのミス・ワカナに仕立て上げる技量には驚嘆した。
この芝居、回を重ねれば重ねるほど濃厚な芝居になっていくだろう。
師匠から支配人まで達者な芝居を見せた元カクスコの井之上隆志、緩急自在の芝居をする正司花江、貫禄の山本陽子ら脇役陣が舞台を締めた。
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