●2015/3/7.土ザ・スズナリ「劇団ハートランド第18回公演/バリカンとダイヤ」
岡町高弥
泣いて笑ってすっきりする。
昔はテレビドラマを見てはそこそこのカタルシスを味わった。
最近ではドラマはおろか映画でもほどよい満足感を得られることは滅多にない。
女性だけの劇団ハートランド第18回公演「バリカンとダイヤ」(作・演出、中島淳彦)(3月7日下北沢ザ・スズナリ)は久しぶりに上質なホームドラマを見たような幸せな気持ちになった。
石田家はメガネ三人姉妹のいるごくごく普通の家族だ。
父親が亡くなった直後で慌ただしい。
ほっとする間もなく家には母親智恵子(大西多摩恵)のたった一人のお姉さん多恵子(矢野陽子)が宮崎からやって来ては帰ろうとしない。
無口などこにでもいるお父さんにも知らない顔があり、中年に差し掛かった三人姉妹にも離婚や借金問題など抜き差しならない事情を抱えていることが明らかになる。
お節介な隣人(田岡美也子)や謎のマッサージ師、あるいは宗教の勧誘員、高級化粧品の女性セールスが現れ、穏やかな日常にちょっとした波風が立ち始める。
他人の波風ほど面白いものはない。
無口で偏屈とばかりと思っていたお父さんが娘たちのお金の面倒をみてお母さんのために思いがけないへそくりを残す。
その思いを知ったときの母親智恵子の歓喜した表情が忘れ難い。
親子の情愛はやはり泣ける。そしてどこか笑える。
中島淳彦の完成度の高い台本と達者な女優たちに恵まれ、素敵な素敵なホームドラマが誕生した。
石田家と宮崎のおばさんの行方をいつまでも見ていきたい、そんな思いに駆られる芝居だった。
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