●2015/12/3. 座・高円寺「お召し列車/作・演出、坂手洋二」
岡町高弥
燐光群がまた「日本の暗部」に鋭く切り込む芝居を見せてくれた。
「お召し列車」とは、天皇を乗せて運ぶ特別列車のことだが、昭和三十年代、ハンセン病患者を全国に13あった国立療養所ヘ移送するため運行された特別列車もまた、「お召し列車」と呼ばれたようだ。
坂手洋二の実家でもある岡山県は長島に日本唯一のハンセン病患者のための公立高校「新良田教室」がその昔、開設されたときも、「お召し列車」と呼ばれた特別列車で新入生たちが集められた。
家族との永遠の別れ、天皇とハンセン病患者、決して交錯するはずのない世界が「お召し列車」を介して結びつく。
坂手は2020年オリンピック開催に向けて新たな「お召し列車」コンペに乗り合わせた者たちを軸に壮大な物語を作り上げた。昔、心ならずも在学していた高校に向かうため渡辺美佐子が、死んだ息子と旅をする。最新の「お召し列車」を審査するため、今を生きるものたちが乗り合わす。
芝居は坂手洋二らしく日本の様々な矛盾が論じられる。そしてつい最近まで差別的法律で隠蔽されていた矛盾の象徴と言っていいハンセン病患者の存在を映し出す。渡辺美佐子が一切の哀しみを引き受ける。その芝居の神々しいことよ。思わず居ずまいを正す。
「もうこれ以上ひどいことがないっていうくらいのひどい目に遭ったら、勇気が出る。私はそうなの」、あるいは、「私は百年先のために生きる」と言った言葉が渡辺美佐子の口から語られる瞬間、芝居はフィクションの世界を越えて、ある種の「言霊」となって立ち現れる。齢83になる渡辺美佐子の科白に震撼した。
どこまでも続く破壊的な状況に何としても抗いたいという作者の切実な想いが詰まった見事な芝居であった。
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