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岡町高弥
日本を代表する昭和の喜劇王エノケンこと榎本健一。 今となっては全盛期の雄姿を知る者もほとんどいなくなった。 本や映画ではぴんとこない。 やはり、生の舞台を観たかったと思っていた06年、 「中西和久のエノケン」(ジェームス三木作・演出)を観て大したものだと感心したことをよく覚えている。 エノケンに扮する中西和久の演技に似ている似ていないを超越した神々しいものを感じたのだ。 さて、それから、4年。 10月31日、紀伊國屋ホールで再び、「中西和久のエノケン」に巡り合えるとは思わなかった。 結論から言おう、初演を越えた見事な作品だった。 「こら中西、逃げ隠れしねェで、ここへ出てこい。」と本物のエノケンが現れて、偽物の中西和久をどやしつけるという オープニングが卓抜だ。 なんとなく、観客は目の前の中西和久をエノケンとして了解してしまう。 了解すれば、怖いものなし。 芝居は一気に走りだす。 「私の青空」や「美しい人に出会ったときは」でおなじみの「エノケンの月光価千金」を歌い出した時には、エノケンにしか見えなかった。 中西和久はトロンボーンにトランペット、ヴァイオリンに三味線、ピアノを弾きながら、踊りながら、歌いながらエノケンの半生を100分間の舞台に凝縮させる。 とかく、評伝劇や一代記は説明的で冗漫な芝居が多いが、無駄な動きやせりふが一切ない、類まれなエンタテインメントに仕上がっていた。 楽器にタップダンスでエノケンを支える9人の若い共演者のアンサンブルも素晴らしい。 エノケンを平成の世に蘇らせてくれた「中西和久のエノケン」に心の底から敬意を表したい。
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