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笑いの12段活用
あちこち原稿
 毎月最終水曜日毎日新聞夕刊掲載

刊笑いに生アクセス NO.48 2008/4/30.
毎日新聞夕刊掲載 ネット版

おしゃべり手品師、伊藤夢葉

欠席せざるをえなかった久しぶりの同窓会や、無念にも行けなかったライブの様子を聞くのに頻繁に使われる言葉、「盛り上がった?」。
 そんなに人は盛り上がりたいのか。
 特に高度経済成長やバブルの時代には、ことさら盛り上がることが命だったような気がする。
 そんな中にあって故・伊藤一葉の奇術は、淡々とした空気をたたえ、最後に付け加える「この件について何かご質問はございませんか?」は、クエスチョンマークの浮かんだお客の虚をついて笑わせた。
 会議でよく使われる無意味とも言える決まりきったフレーズを、わざわざ意味があるかのように口にするのがおかしかった。
 奇術もしくは手品と言えば、いかに巧妙にものを隠し、いかに早くものを移動させるか、も大切な要素ではあるけれど、そればかりだと競う分には楽しいが、それがどうしたという気になる。オリンピックじゃないんだから。
 故・アダチ龍光の、時計が食パンから出てくる手品を見たときは、技術もさることながら、訛のおかげもある上品なユーモアに昇華したおしゃべりに酔わせてもらった。
 このおしゃべり手品師の系譜が、いま、さらさらと伊藤夢葉に受け継がれ、人を煙に巻いている。
「あんまりたいした道具は使わないんですよ」とトランクを覗き込み、ポロリと落としたものあり。
 手品師がものを落とすなんて、と一瞬、同情まじりの緊張が客席に走る。
「これ、なんだか知ってます?」と拾い上げられたものは鞭。
手品師がなんで鞭を?と不思議に思いながら、落としたことに悪びれず逆に質問してくる手品師に、いくぶんほっとしながらお客が「鞭!」と答えるや、鞭との出会い、鞭の扱い方、ついには鞭をビシッと鳴らして見せる。おおっとあがる歓声。
鞭のことは充分わかったけれど、だからどんなふうに手品とからむのか、その先を知りたいお客の好奇心が盛り上がったところで、夢葉は言い放つ。
「これは趣味なんです」。
 何食わぬ顔で元のトランクへ戻されてしまう鞭。
 ポカンとした一種の間があって場内爆笑。
 期待した自分がおかしくて笑ってしまうお客さん。
 こうなってしまえば、お客はもう夢葉さんの手のひらにのせられたようなもの。
 続くありきたりの手品に、またもやいちいちはぐらかされ、弄ばれる心地よさ。
 盛り上がらないように懸命に努力しているのでは、と勘ぐりたくなる夢葉手品は、経済停滞期にぴったりです。
■伊藤夢葉にだまされたかったら■
「渦18」5月4日、しもきた空間リバティ(下北沢)
寒空はだか、キン、シオタニ、小林のり一、清水宏、伊藤夢葉、オオタスセリ
03-5856-3200 渦産業
「国立演芸場中席」10-20日)半蔵門 さん喬、扇好、二楽、紫文、笑組、ほか。
0570-07-9900 


 
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