2008/3/17~23.「松元ヒロSOLO LIVEin R’s ART COURT vol.15」
新大久保アールズアートコート
松元ヒロ、上目遣いに世相斬り
吉本興業の故・林正之助会長にかわいがられ、ごちそうになるばかりか背広まで作ってもらったことがある東京からやってきた芸人はそうそうはいまい。
その3人編成のコミックバンド「笑パーティー」に属していたころから幾星霜、
ザ・ニュースペーパーを経て、松元ヒロはいまや一人パフォーマーとしてライブに生きる。
パントマイマー、漫談家、コメディアン、どれも正確に松元ヒロを言い当ててはいない。
人情話からオブラートにくるんだ世相斬りへ、汗が尽きるまでスポーツ選手のように走りきる。
まず、おもいっきり下手から出て客を油断させ、深いところへ斬り込んでいく。
(中略)
9.11同時多発テロ事件後、全米がブッシュを先頭に正義の報復で沸き立っている時期、
落語会にやってきた普通のお客さんを相手に、松元ヒロは、一言も発することなくただ黙ってチャップリン映画「独裁者」の演説にも似たしぐさで報復に燃える大統領を模した。
いや、私がそう早合点しただけだったのかもしれない。
このとき、私の体に戦慄が走った。
拍手と笑いから察するに私と同じに受け取った人は会場の五分の一もいなかったように思う。
でも、だからいい。
万人に受ける大人の笑いなど、この時代にはどだい無理なのだから。
そんな諦念をふまえて、だからこそ時代の危うさを笑いに昇華しようとする松元ヒロの勇気と工夫に心意気を感じた。
(毎日新聞連載「笑いに生アクセス」2007.1.31掲載より抜粋)
|