●2018/2/24.土 浅草木馬亭
「愛山、終活始めます。聴いておくなら今。―講談は、ダンディズムである。」
岡町高弥
15時47分、浅草の喫茶店で一息いれている。放心状態。強烈な藝に接するとなんというか娑婆に戻るまで時間がかかる。
2月24日、「愛山、終活始めます。聴いておくなら今。―講談は、ダンディズムである。」を聴くため浅草・木馬亭へ。
土曜日の13時に浅草・木馬亭に行くのはなかなかの決意がいる。しかし、今をときめく神田松之丞がリスペクトし、玉川奈々福がプロデュースするとあっては行かねばならね。木馬亭130人の客席超満員。
初めて見る神田愛山は小さな老人だった。声はかすれているが、仕草や声の出し方は立川談志に似ている。落語家志望というのもわかる。見るからに気難しそうだが、奈々福がお膳立てして超満員になった客席を見て嬉しそうだ。「奈々福の養子になりたい」と言って笑わせる。
「志ん生一代」で有名な作家結城昌治の熱烈なファンで「始末屋卯三郎暗闇草紙初不動地獄の証文」を講談に仕立てるまでのドキュメントを語る。原作者結城昌治の目の前で新作講談を披露し、「感心しました」と誉められた「始末屋卯三郎」は、今日が読み納め。さすがに見事な出来映えだった。
始末屋卯三郎、いわゆる仕事人のような男の物語。真面目な番頭が罠にはまって盗まれた50両。裏には番頭の娘が芸者屋に売られる筋書きができていた。黒幕は番頭が勤める大和屋の若旦那ともう一人の番頭、二人が仕組んだ悪辣な仕掛。すべてを知った卯三郎が芸者屋に駆けつけると、大和屋の用心棒平手造酒が若旦那を初め関係者を切り捨てた後だった。
「俺の刀が切れと言った」と平手。
平手と卯三郎のやり取りは座頭市勝新太郎と平手天知茂を見ているようだ。「文七元結」の悲劇版と「座頭市」を掛け合わせたような活劇講談にすっかり酔ってしまった。愛山の闇の深さが講談に魂を与えたような渾身の一作だ。
余韻に浸る間もなく奈々福が明るく「梅ヶ谷江戸日記」を唸る。
愛山に招かれたマンツーマンの忘年会の話も愉快。
後半は講談私小説「ある講釈師の最期」。
くも膜下出血で倒れ全く浮かばれなかった田辺一鶴門下、田辺鶴生と自分を重ね合わせた私小説。なかなかに重いドキュメントだが、さすがの話芸。埋もれさせておくにはもったいない。松之丞や奈々福が切り開いて思わぬ鉱脈が見つかった。
神田愛山いやはやとんでもない腕前だ。
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