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2014年12月16日(火曜日)
(その29)スタンダップコミック、寒空はだかフィクション世界
 
 寒空はだかというインパクトのある名前とは裏腹に、ほどのよい芸風を保ち続けているこの方を、いったいどう説明すれば誤解を招くことなく紹介できるものだろうかと思い倦(あぐ)ねていたら、ふと兼好法師『徒然草』の序文が浮かんじゃった。
 
 「つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば」
 
 書きつけるのが法師なら、喋(しゃべ)りつけるのが寒空はだか男爵。「つれづれなるままに、演芸畑と音楽畑と鉄道畑と邦画畑とタワー畑を逍遥(しょうよう)しつつ日くらし、たまにマイクにむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく喋りぬれば」となり、その結果こうなる。
 
 「あやしうこそものぐるほしけれ」(現代語訳:妙に馬鹿馬鹿しい気持ちになるものだ)お客も思わずあきれて笑ってしまう。喋る畑によって、漫談家ともスタンダップコミックとも呼ばれ、ときに応じて、場所に応じて、よしなしごと、すなわち、たわいもないことをしゃべって、お客を煙に巻き続ける。
 
 もちろん、そこに教訓は一切ない。大向こうをうならせなさはたいしたものだ。これ、誉めてます。
 
鉄道好きが高じて、ついに電車そのものになってしまった寒空はだかさん
(湘南電車ファッション)
撮影:橘蓮二
   
 
 そんなこんなで、昭和のシンボルを題材にした「東京タワーの歌」を歌い続けて20年。「東京タワーにのぼっタワー」と誰しもを脱力させる歌詞、本人いわく「耳に残って心に残らない歌」で、全国とはいかないまでもせめて関東地区を席巻、しそうでしないほどのよさ。
 
 自己診断は「7勝6敗の男(実は2日休んで負け越し)」。元「オチケン(落語研究会)」だけあって、人呼んで「クイズのような芸」、お客の想像力頼みの芸が功を奏して、なんとお客様がいやおうなく育った。
 
 脳細胞を最大限に働かせる快感に目覚めたお客様はちょっとやそっとでは離れない。近頃は、あちらからこちら、こちらからあちらへ、ひらひらうつりゆく話題、緩急に身を任せ、わからなきゃわからないなりに楽しむお客様の脱皮的成長により、楽しげなぼんやり空間が現れる確率があがってきた。
 
 先日のライブ「鉄渦」における、人呼んでゆる鉄トークでは、お客を鉄道教団に集った信者に見立て、指差し確認後、デゴイチ如来に祈りを捧げ、「ようこそミサへ、いやモハへ」と始まった。折しも俳優・高倉健さんが亡くなったばかりだったので、「大いなる旅路」「新幹線大爆破」「鉄道員(ぽっぽや)」「駅 Station」の鉄道映画噺で健さんを偲び、衆議院解散に向けていよいよ鉄道党(塔?)代表として立候補すると宣言。かかげる公約は「中野駅の乗り換えをしやすくする」「食堂車の復活」「自動改札の廃止」「アナウンスのダミ声化」「原発を廃止して蒸気機関車の復活」などなど8項目に及び、ゆくゆくは日本中を線路まみれにしましょう、と結んで喝采を浴びた。
 
 フィクションに遊ぶ共有空間。さてさて、そろそろ貴方も、この寒空はだか世界で一緒に戯れる時期かもよ。
 
 
●2015年1月4日(日)「寒空はだかpresents♪ 新春ニコニコ大会2015」
時間:18:00~(開場17:00~)
出演:ビューティフルハミングバード/バロン/寒空はだか
会場:吉祥寺・MANDA-LA2(吉祥寺駅公園口末広通り5分)
武蔵野市吉祥寺南町2の8の6(地下)
料金:2800円(前売り2500円)※要別途、ドリンク代
問い合わせ:0422・42・1579(マンダラ・ツー)
 
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
映画「南の島に雪が降る」が大好きという上司を 300
仕事はじめに備えて、ゆるゆる正月をこれでしめさせたい旦那を 150
沖縄基地問題、原発反対、ヘイトスピーチ、など社会問題を考えすぎて体調くずしてる友を 200
近頃の進取の気性に富んだ落語家の隆盛を慈しみあちこち出かけてる活動的ファンを 120
2チャンネル世界にくたびれてるTwitter仲間を 170
 
 
【リンク】
 
 
2014年11月17日(月曜日)
(その28)会話劇ふたり芝居とひとり芸講談・浪曲・音曲(おんぎょく)の妙を体験すべし
 
 またまた渦の季節がやってまいりました。
 
 芸能娯楽の垣根を取っ払って、でも一つのセンスの芯は通っているという味わい深い極小ライブ。山椒は小粒でもぴりりと辛い、ビターテイストライブです。こじんまりした空間に、コンセプトの志は高く、いざ、笑いの渦を演劇の街・下北沢から発信、発進、出発進行~。
 
 1人の持ち時間30分の「鉄渦」は12回目、「喋り渦」は8回目と渦常連さんにはすっかりお馴染みになりましたが、今回新たに始まるのは和渦です。和の芸能はどうしても東京の東になじみが深く、西では演劇がなじんでいます。ものすごく大ざっぱに言うなら、情的なものは東、知的なものは西、といった印象でしょうか。落語会にしても圧倒的に東の方が集まりがいいんですね。
 
 ところが近年では、小田急線に沿って北沢タウンホールや成城ホール、新宿、中央線際にも続々演芸テイストの会が誕生しています。つい最近では、個性的な映画を上映していた映画館ユーロスペースで「渋谷らくご」なるものが始まりました。のぞいてみると、キュレーターのサンキュータツオさん(漫才:米粒写経の一人)が自らの落語観客体験と「東京ポッド許可局」で培ったセンスを生かして、次々に斬新な企画を立ち上げています。渋谷、と聞いただけで足を踏み入れたくないという演芸ファンが多数いるのも事実。だからこそ、演芸通じゃない若者初心者が物珍しげに気軽に立ち寄る姿が見られました。
 
 「渋谷らくご」の帰り道、ギターを背負った黒髪と手ぶら茶髪の男子二人が「すっげーなー、落語、ずーっと喋ってたもんな」「間とか、声を落としたりする感じがうまいんだよな」といかにも音楽畑らしい感想を語り合っていました。そうかそうか、お主らは話芸の調子から入ったわけか。いいぞいいぞ。1人は、初体験に高揚した面持ちで「あと、5回、いや6回は行くな、行こうと思うな」と「渋谷らくご」で配布されたチラシ片手にぴょんぴょんしてました。あはは。
 
 私なんてもう中に入ってしまっているので、垣根の高さに気付かない。外からの視点が持てずに、一度見ちゃえば病み付きになる人がいるはずなのになんで聞きに来ないんだろうと地団駄ばかり。だ、か、ら、下北沢で「和渦」
 
 いかに垣根を取っ払えるか。落語よりもっと知られていない、浪曲、講談なんぞはどうでしょうね、と始まりました。浪曲の唸りと三味線の掛け合いなんて見て聴いたら、このセッションはジャズじゃん! とびっくりすると思うなあ。一人ミュージカルだ! つった人もいたなあ。また、日本の歴史の衝撃的なシーンをあるときは勢いに乗って、あるときは抑えて語る講談なんて目の前にしたら、日本語の美しさとリズムにこれまたびっくりだよな。見せたいよ、聴かせたいよ。
 
 映画やテレビのような大掛かりな装置は必要とせず、1人で唸り、語り、情を、知を、ほとばしらせる話芸がここにあるんだよ。連綿とした歴史を超えて継承されてきた日本の話芸を、せめて日本人に、その後は世界に発信したいものです。
 
 
左から、講談師の神田松之丞さん、三味線の沢村豊子さん、浪曲の玉川奈々福さん
   
 
 「和渦」では、講談神田松之丞と浪曲玉川奈々福(+三味線:沢村豊子)の間にはさまって、独自の境地を展開するのは現代音曲師上野茂都さん。ユーモアまじえて和の言葉、音階、間をあやつる術は必見です。どうですか、ちょっとそんじょそこいらでは見られない会ですよ。
 
 
現代音曲師・上野茂都さん
写真:橘蓮二
   
 と、凪沢渋次さんと足立道彦さんによる「ナギ渦/りぼん」これまた凄い。  
 
「ナギ渦/りぼん」
   
 
 12年前に公演した二人芝居の再演を阿佐ヶ谷で見たのが8年前でした。見た後で、これはもうなんとしても見せなければと、あちこちメールで誘いまくり、何人かが見に行ってくれ、面白かった! と感想メールをくれました。当時、凪沢さんと足立さんは30代後半。膨大な台詞を覚えられるのは、もうそろそろ限界の年齢にきてるからと、これが最後の覚悟で打った公演でした。それをまたやってくれると言うからうれしいじゃありませんか。
 
 足立さんは、自らマスターをつとめる下高井戸の珈琲店「2-3」を閉めたあと、稽古場へ向う日々です。最初の公演から干支が一回りしました。私は思う。12年の時を経て、芝居はさらにユーモアを湛え奥深くなってるはずと。なにせ、楽しみです。
 
 ね、だから、下北沢でこの両方を見られたら、ぐっと人生が広がり、なおかつ深くなるとは思いませんか? ビバ!お客力の健闘を祈ります。
 
 
●【渦34】
2014年11月22日(土)~25日(火)7公演
 
日替わりジャンルシャッフル下北沢ヴォードビルのはじまりです。
わけありくせあり大人芸見本市。
誘う楽しさ、誘われるうれしさ、演る人、見る人、もちつもたれつ。
演劇、スタンダップコミック、音楽に歌に音曲に落語に浪曲に講談、
おやじにお嬢さん、姐御に兄貴、弟分に若旦那
アコーディオン、ギター、三味線、サックス、カンカラ三線ございます。
 
●予約問合:件名「渦34予約」 (メール uzumarishiro@icloud.com
      電話 03・5856・3200(渦産業)  
公演渦名、日にち、お名前、枚数、折り返し連絡先を明記、もしくは留守電吹き込みよろしく。
(※メール予約の場合、返信PCメール受信を可能な設定にしておくか、電話番号明記よろしく!)
※急な出演者変更御容赦。
 
●料金:3000円<ただし11月22日(土)昼夜「ナギ渦/りぼん」は2500円>
    自由席/予約者優先入場
当日受付開始は開演1時間前、開場は開演30分前
 
●会場:しもきた空間リバティ
(下北沢駅南口、マクドナルド左下る、ABCマート4階)
    電話 03・3413・8420
 
■11月22日(土)昼夜「ナギ渦/りぼん」ナギプロ・パーティ特別企画二人芝居2公演
『りぼん』 作:演出 凪沢渋次  出演:足立道彦・凪沢渋次  15:30~/19:30~
12年前に初演、8年前に再演された名作の再再演!
世界的な大企業にやってきた謎の営業マン。彼の本当の目的は? 小さな商談室で繰り広げられる、二人の男のシチュエーションコメディ!
 
■11月23日(日)昼「じわり渦」14:30~
モロ師岡、ナオユキ、とんちピクルス、さこ大介(だいすけ)、ペーソス
 
■11月23日(日)夜「ハッピー渦」19:30~
岡大介(たいすけ)、遠峰あこ、オオタスセリ、山本光洋、だるま食堂
 
■11月24日(月・祝)昼「和渦」14:30~
神田松之丞、上野茂都、玉川奈々福(曲師:沢村豊子)
 
■11月24日(月・祝)夜「鉄渦12」19:00~
寒空はだか、ダメじゃん小出、古今亭駒次
 
■11月25日(火)夜「喋り渦8」19:30~
山田雅人、林家彦いち、松元ヒロ
 
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
アイデアグッズ、隠れた名品、路地裏の美味しい店をよく知ってる上司を 300
下北沢在住、バイトと音楽ライブ漬けな友を 150
お笑いコンテストにチャレンジし続け、この先どうなるんだろうと悩んでる弟を 200
暮らしになんか一味足りないと漠然と感じてるらしい若い母を 120
連休を都内で過ごしながら遠い世界へ旅した気分を味わいたいとつぶやいたスナックの常連を 170
 
 
 
 
2014年10月15日(水曜日)
(その27)落語のぬくぬく風を~。瀧川鯉昇、柳亭市馬、三遊亭兼好の巻
 
 東日本大震災が起こった直後、笑いはいったいどうなるんだろうと思った。切羽詰まった命の前に、笑いがいかに無力かを見せつけられた。
 
 が、これだけは言える。笑いの習慣、要するに、視点の多様さを身につけた人達の方が立ち直りが早かったはずだと。ときを経るに従って、芸能が、笑いが、力になれると感じた。私の場合は、たまたまYouTubeで目に耳にした、浪曲のうなり声に力を得、優しいカウリスマキ(フィンランドの監督)の映画を無性に見返したくなったことを覚えている。
 
 笑いにはいろんな感情を誘発する力があり、共感であったり、解放であったり、自省であったり、触発であったり、する。元気なときは、日常と違う視点を提供してくれるとんがった笑いがほしくなる。が、行く先見えぬ不安で胸がつぶれそうなときは、人はみなと笑い合って共感し合い、その日だけでもゆっくりぐっすり眠りたくなるものだ。
 
左から柳亭市馬さん、瀧川鯉昇さん、三遊亭兼好さん
撮影:山田雅子
   
 
 2011年3月11日の翌年、2012年2月16日に始まったのが「あったか落語、ぬくぬく。」。チラシコピーにはこうある。
 
 「成城ホール、2012年ぬくぬく空間へどうぞ~。湯たんぽのような、もこもこ靴下のような、ほっこり、ゆっくり、あったか落語。ゆるんで帰れば、一晩ぐっすり。」
 
 メンバーは、それぞれ、落語協会、芸術協会、円楽党に所属する人選。
 
 今や、落語協会副会長から会長になった50代柳亭市馬(りゅうてい・いちば)、芸術協会理事の60代瀧川鯉昇(たきがわ・りしょう)、円楽党の40代三遊亭兼好(さんゆうてい・けんこう)。おだやかな落ち着いた高座のこの三人は、落語初体験者にも、御常連にも、会のタイトルどおり、あったかでぬくぬくした気持ちになる空間を提供してくれる。
 
 古典落語に、現代の息吹を吹き込むそれぞれの演出は見ていて飽きない。若くして会長の座にいてもなんら不思議を感じさせない人間力あふれる市馬さんの高座は、故小さん会長の剣道のお相手もしただけあって武士が刀を構える様はさすがびしっと決まり、ときとして、お得意の懐メロや相撲甚句(じんく)が入ると賑やかなことこの上なし。
 
 若い頃から今と同じ顔だった鯉昇(20代のときから見てる筆者が言うのだから間違いなし!)さんは、名エッセイとも言える脱力マクラで本編の古典落語へ誘い、気がつけば、モンゴル平原に遊び、ベートーベンに学び、面倒事は大嫌いな登場人物達にああなりたいと憧れを抱かせる。
 
 いったんは社会人として働き、妻子をもうけたにもかかわらず、ある日、テレビに出てた落語家を指差し、「俺、コレになる」と妻につぶやき、ふとした気の迷いを貫徹して入門、現在にいたる兼好さんは、月に一度『東京かわら版』という日本で唯一の演芸専門誌に連載を持つ文筆家でもあり、現代の事象を入れ込んだマクラは落語初心者のハートをぐいっと掴(つか)む。違う世界の人じゃなく同じ土俵に生きる人が話す物語、という感じで落語に親近感を抱かせる。
 
 この三人に共通しているのは、年代も所属も違えども、高座を聴けば、人間が好きになるってこと。ぎすぎす世知辛い世の中にほとほと嫌気がさしてるそこの貴方! 成城ホールへいらっしゃい。ぬくぬく風に吹かれにね。
 
 
 P.S. そうそう、鯉昇さんが引っ越しました。そして夏の疲れで入院、退院、かなりのヘビースモーカーが禁煙中~。いただいたメールがあまりに面白かったので内緒でお裾分け~。
 
 「タバコ飲みもとうとう年貢の納め時です。初めての入院でまだ美しい倒れ方が身についていません。戸惑っています。<中略>(引っ越して)扇風機も電気釜もかわりました、飛んでくる蚊も初めて見る顔立ちです。」
 
 
 
●10月29日(水)「あったか落語ぬくぬく。その七」
時間:19:00~
出演:瀧川鯉昇、柳亭市馬、三遊亭兼好
会場:成城ホール
料金:3500円
問い合わせ:03・3482・1313(成城ホール)
秋寒をあったか落語でお出迎え
実は所属団体も年季も違う三人の
珍かなる組み合わせ
気張らず、息まず、滲む可笑しさ
一週間の真ん中、水曜日
贅沢な大人時間に身を任せ
気持ちゆるめて、また明日。
 
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
禁煙中につきいらつく近所のおじさんを 300
ラクゴは「笑点」だと思ってる義理の兄ちゃんを 150
三波春夫の「俵星玄蕃」に感動した親戚のおじさんを、市馬師匠の俵星もいいよと誘って 130
あたくし品のある笑いしかうけつけなくってよ、とつぶやく近所のお姉さんを 120
出身当てクイズしてみたい方を。鹿児島、静岡、会津、さて誰がどこでしょう? 170
 
 
 
 
2014年09月18日(木曜日)
(その26)古典に新作に映画に自転車に雲助一門、の桃月庵白酒さん
 
 芸事は、一声二節三啖呵(たんか)、とはよく言ったもので、内容における視点や組み立てやテーマ(啖呵、セリフ)なんてのは三番目だよ、というわけ。誰かとなんとなし気が合った場合、探ってみるとまず声との相性があるみたい。
 
 どうですか? 見た目より、電話で声を聴いたときの方が相性がわかる気がするの。特に、今ほど、作品に対するプロ的見方がなされなかった頃、多くの人を理屈抜きにがばっと掴(つか)むなら、まずは声と節(調子)なんですよね。
 
 気力は「目」に出る、生活は「顔」に出る、感情は「口のまわり」に出る、年は「後ろ姿」に出る、そして教養は「声」に出る、と言ったのは写真家・土門拳さんの言葉ですが、まさに。その「声」で師匠を選んだのは、声フェチと自称する桃月庵白酒(とうげつあんはくしゅ)さん。
 
桃月庵白酒さん
撮影:山田雅子
   
 
 重低音の声にしびれて五街道雲助師匠追っかけの末に入門。この入門というのも、師匠を持ったことのない私なぞにはわからず、なんの意志もなく生まれちゃって出会った実の親と違い、自らの強い意志で選択する第二の親、師匠を選ぶ基準ってなんなんだろ、と思っていたところ、高座で白酒さんが言いました。
 
 「この人になら一生、頭をさげてもいいと思った」
 
 はたと膝を打ちました。
 
 もう一つ、なるほどと思ったのは、一門に不思議な名前が多い理由。桃月庵白酒に続き、隅田川馬石(すみだがわばせき)に、蜃気楼龍玉(しんきろうりゅうぎょく)とはこれいかに。五街道雲助の名については「雲助、悪名一代」(五街道雲助著)にもあるとおり、自由に旅ができない江戸時代にあって五つの街道を縦横無尽に駆け巡るこの悪名を大変気に入ったと。が、弟子は弟子で新たな名前をつけた方がいいという師匠のフリーな感じ、襲名にまつわる面倒ごとを避けたいという、なんともこざっぱりした一門、いいなあ。
 
 この本の副題「芸人流、成り下がりの粋」も、素敵すぎます。芸は人なり。生き方が高座に反映されています。師匠と弟子、最初はほんの偶然が、こうしかあり得ないという必然になってく不思議。9月1日(月)~5日(金)の連続五夜独演会「白酒まつり」では、いわく「ホール落語と寄席の中間をやりたかった」と。
 
 ぐだっとした寄席のゆるさ、パキッと期待感いっぱいのホール落語の間とは? 大向こうを唸(うな)らせるホール落語の重厚さと、寄席が持つ流れに沿った滑稽な軽さ、の両方があればそりゃ最高です。千秋楽、やはり通い詰めた知り合いの業界の方と歩きながら口から同時に出た言葉は、「幸せだったね」でした。御本人が気負いを感じさせないので、大ネタすらお客を疲れさせず、ゆったりした時間を過ごしました。
 
 事象についての独自な意見、歯に衣着せない白酒マクラの中毒になってる方も日に日に増えています。自由なマクラのあとに、骨格のしっかりした端正かつ現代風味が施された落語が続くもんだからこれはもう。
 
 アキ・カウリスマキ監督の映画に登場するような、人生の敗北者、あかんたれ、できそこない、がスキップして嬉しそうに跋扈(ばっこ)する落語世界、それが白酒落語です。
 
 去年の夏公演、上野鈴本演芸場特別企画「白酒の裏切り~おはよう新作、おやすみ古典~」では、川柳師匠を主人公にネタおろしだった「寄席よりの使者」を含めて日々新作落語を披露、喝采(かっさい)でございました。
 
 この9月20日(土)には、白酒さん登場の映画「ぼんとリンちゃん」(小林啓一監督)も新宿シネマカリテで上映開始。  
 
 小林 啓一監督作品の前作「ももいろそらを」にも白酒さん、ポイントになる役柄で御登場。出演者らの自然な演技、テンポ、素晴らしい本に感動したので、今回も大期待です。  
 
 さて、寄席に自転車通勤する白酒さんにとってはなんとも気持ちのいい季節でございます。納得のいく落語ができたとき、ハンドル握って一人疾走するのが最高だそうで。
 
 でしょうとも!  
 
 
9月19日(金)「桃月庵白酒独演会/白酒むふふふふふふふふふふvol.9」
ゲスト:哀愁おやぢの平成歌謡ペーソス
時間:19:00~
会場:なかのZERO小ホール
料金:3600円
予約:03・5785・0380(夢空間)
 
10月7日(火)「ほどほど落語長屋」
川柳川柳、桃月庵白酒、春風亭一之輔
時間:19:00~
会場:北沢タウンホール
料金:3700円
予約:03・5478・8006
 
10月14日(火)「セゾン ド 白酒特別編/五街道雲助、桃月庵白酒親子会」
時間:19:30~
会場:成城ホール
料金:3000円、当日3300円
予約:03・3482・1313
 
10月27日(月)「桃月庵白酒in下北沢」
時間:19:30~
会場:下北沢シアター711
料金:予約2500円、当日2800円
問い合わせ: メール ( misa071202@gmail.com )  
 
 
おすすめ本
「雲助、悪名一代」雲助著(帯が野坂昭如)、「白酒ひとり 壺中の天」白酒著(帯が永六輔)、ともに白夜書房刊
自転車と白酒さんについてこちら  
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
テレビ見ながら「馬鹿もやすみやすみ言え」と突っ込みまくりのおじさんを 300
落語ってむずかしそうで苦手、という行きつけのコンビニのバイトさんを 150
深夜のテレビでこそこそしてる人達、普段はラクゴっていうのを毎日喋ってるんだってね、と興味持ち出した友達を 130
自転車通勤の同僚を(白酒さんも自転車で寄席通い) 120
師弟関係に興味ある知り合いを(10月14日) 170
 
 
 
 
2014年08月11日(月曜日)
(その25)軍歌にジャズに歌謡曲、平和願って今日もガーコン落語家、川柳川柳
 
 高校生のころ、こんな光景があった。「ベトナムはえらい!」と言いながら晩酌をしていた父。大国に歯向かう小さな国に肩入れしていた父。
 
 徴兵検査で甲種合格だったと誇らしげだった。戦争末期、軍役につき南方のジャングルで彷徨っていたらしき父。方向音痴で…と苦笑い。敵機をみとめ、四つの防空壕の一つに咄嗟(とっさ)に飛び込み、出てみたら、他の三つが爆撃されていたと、鉛筆で図を描きながら説明してくれた。
 
人生は7割が運だ、とも。むごい前線で何を見たか、語らずに逝った。若い頃は、いっときでも軍国少年だった時期があったのかどうか、聞き逃した。
 
 
撮影:橘蓮二
 
 
 
 川柳川柳という不思議な名前の落語家、いま、83歳也。かわやなぎせんりゅう、と読む。
 
 この名を知ったとき、演芸友達は、キョン2(KYON×2、キョンキョン、小泉今日子の愛称)になぞらえて、センリュウセンリュウと呼んでいたっけ。三遊亭円生という古典落語の神様とでも呼ぶべき師匠に入門、それこそ大変な紆余曲折があり、新作落語を高座にかけ現在に至る。
 
 川柳人生そのものが落語だ。
 
 夏はやたら忙しい。なぜなら、戦勝に湧いた日本から敗戦を味わった日本までを、笑いと歌で綴り、爆笑を誘うから。生まれついての美声と音感とリズムが、落語知らずを爆笑させる。嘘だと思ったら聴いてみて御覧なさい。酔っ払いのエピソードは数知れず。嘘かほんとか好きなのはこんな話。酔っぱらって、読書家の川柳師匠、本屋に入って聖書を盗んで咎(とが)められた。神はゆるしても書店員はゆるさなかった、のオチ。
 
 寄席を出入り禁止になったとか、師匠のうちの玄関にうんこをしたとか、師匠の机の上に褌を置き忘れたとか、生真面目な円生師匠だからこそ、可笑し味が倍加する逸話の数々。
 
 打ち上げで、酔っぱらって口(くち)ラッパが出ると危ない、すぐにタクシーを呼んで押し込んで帰しちゃうという落語界の慣例。その現場に私も何度も出くわしたが、それはそれは嬉しそうな酔っ払い。
 
 打ち上げ佳境、午前3時頃、うるせえ爺ィとばかりに川柳頭を便所のスリッパではたく立川左談次師匠。これがまた、息があってて、スリッパを隠し持つ立川左談次師匠のモーションを察知するや、はたきやすく頭をかしげて差し出す間のいいこと。二人の仲ではお約束らしい。で、「左談次はね、俺のこと好きなんだよね」だって。
 
 こんな川柳師匠に、女性が入門したから面白い。
 
 大手出版会社の編集者からの転身、いまほど女性落語家が多くない頃、女性としての新作落語をやるならと入門をゆるし、介護人を確保、と言われながら「川柳つくし」としてめでたく真打ちに昇進させた。つくしさん曰く「師匠は自分のことしか考えておらず、自分大好きで、自分の得になることしかしません。つまり、人の足を引っ張ったりもしないわけです。また、腹に一物があるような人柄でもないので、言葉の裏を読んだりしなくてもよく、余計な気を使う必要もありません」。  
 
 師匠は言う「俺は女が落語を演るのなら、古典である必要はないと思う。だって女が「褌から○○がぁ~」なんて下品なセリフを言ったら、客はしらけちゃうよ。それより、女であることを活かした噺(はなし)を作ればいいの。もともと落語は男が演るように作られたものだからね」(「女落語家の『二つ目』修業」川柳つくし著、双葉社刊 より)
 
 業界では愛されキャラの川柳師匠、新作落語にもよく登場している。
 
 三遊亭白鳥「天使がバスで降りた寄席」や桃月庵白酒「寄席よりの使者」は、川柳キャラクターがあってこその爆笑新作落語。キャラクターの主を知りたくて、ナマ川柳を見に寄席に通った落語ファンも多いはず。
 
 未見の方は、是非一度、通称「ガーコン」を御覧ください。
 
 戦争の馬鹿馬鹿しさが笑いのうちに沁みて来ます。
 
 
 
8月13日(水)「道楽亭寄席/敗戦落語会in道楽亭」
川柳川柳3席、快楽亭ブラック「川柳の芝浜」ほか
時間:19:00開演
会場:新宿2丁目道楽亭
料金:3000円
打ち上げ参加者希望会費3000円
予約:03・6457・8366(留守電)
★満員御礼。キャンセル待ち。
詳細はこちら  
 
8月15日(金)「川柳川柳 昭和音曲噺 夏のガーコン祭り」
川柳川柳、川柳つくし ゲスト:柳家喬太郎
時間:19:00開演
会場:座・高円寺
料金:3000円
予約:03・5474・1929
★満員御礼。当日券若干。
詳細はこちら  
 
8月16日(土)「敗戦落語会in大倉山記念館」
川柳川柳、川柳つくし
時間:14:00開演
会場:大倉山記念館ホール
料金:前売り2500円、当日3000円
予約:045・568・5947(留守電)
詳細はこちら  
 
8月11日(月)~20日(水) 浅草演芸ホール中席夜の部に出演
詳細はこちら  
 
8月21日(木)~30日(土) 上野鈴本演芸場下席昼の部に出演。主任
詳細はこちら  
 
10月7日(火)「ほどほど落語長屋」
川柳川柳、立川左談次、桃月庵白酒、春風亭一之輔
時間:19:00開演
会場:北沢タウンホール
料金:3700円
予約:03・5478・8006(北沢タウンホール)
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おすすめ本
「寄席爆笑王/ガーコン落語一代」(川柳川柳著、河出文庫)
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
かつては軍国少年だった上司、お父さん、おじさんを 300
なぜ戦争をとめれらなかったのか当時のことがわからないという友を 150
落語はむずかしいからと敬遠してる自営業の旦那を 130
かわいいおじいちゃん大好きな妹を 120
一つ驚かせてやろうという魂胆で、落語家にある種のイメージを抱いている方を 170
 
 
 
 
2014年07月15日(火曜日)
(その24)中高年おやぢの哀愁、よりかかり放題の第二、第三の人生を歌う50歳デビュー、100%マジで冗談「ペーソス」
 
 年をとると、人とのつながりが幾何級数的に増えていくので、えっ! と思うことが頻繁に起こります。かつて「東京タウン情報」という雑誌で木村(筆者)が「ボランティア、祭り、演芸」の3ジャンルを担当していたころ、くにゃくにゃした線の漫画というかイラストが載っていたのを覚えていて、それを描いてたのが島本慶さんでした。島本さん、20代後半か30代前半のころ。
 
 ほぼ30年後、場所は二度づけ禁止の新橋高架下の焼き鳥屋。奥のほうで歌ってた男性、ようく見るとその島本慶さんでありました。ちょっとHな男性誌では、「なめだるま親方」というキャラクターで知られる人になられたらしいです。
 
 編集畑で動いてきた島本さん、ある日、俺はずっと自分の歌を歌いたかったんだという衝動をおさえられず、50歳にして、ペーソスという男性デュオでいきなりデビューという暴挙に出られました。第二の人生。やりたいことがあったと気付く年、50歳。
 
 そんな人生だってありじゃないか、あり得ない話では全然なーい、ギターが巧い高校の同級生を誘い2003年にムード歌謡でデビュー。パーティでの余興に出たこの二人のペーソス漂う姿に感動、出版社勤務のスマイリー井原さんが専属司会を買って出れば、第二の人生はサックスを吹いて暮らしたいと出版社取締役編集局長末井昭さんが自己申告で参戦。その後、作曲者兼ギター担当メンバーが若手の米内山尚人さんに入れ替わったりしながら、現在に至る混成部隊。
 
 
ペーソスのライブ風景
しもきた空間リバティ渦33「風渦」にて
撮影:橘蓮二
 
 領収書、連帯保証人、血糖値、前立腺、尿酸値、コレステロール、豆大福、温泉玉子、撥水加工、麦茶、なーんて名詞が出て来る歌がいままであったでしょうか。高齢者の笑いが、歌が、なければ日本はおかしくなる、と思います。
 
 30代のころに見上げた50、60代は、おじいさんおばあさんでした。ところが現実に自分がその世代になってみると、青年より青年らしくなっていくことに気付きます。なめられないようにと気を張る必要がなくなるので、おじさんもおばさんも素直になるのです。
 
 連帯保証のハンコを押してしまったがために、南の島まで逃げて俺はいったい何者なのかと自らに問えば、返ってきた答えは「連帯保証人」。(「ああ、連帯保証人」より)
 
   眼鏡美人の女医さんから、生活改善を要求され、次々に課される無理難題。ふと気付くと、患者の立場を忘れ、指摘を続ける女医さんのS的怪しさに飲み込まれそうになってます。(「具体的なブルース」より)
 
 ナンセンストリオを御存知の方なら、赤あげて白あげないで赤さげない、の旗あげにインスパイアされた歌ときたら、オチも効いてて、さすが、ボーイズバラエティ協会メンバーに入っただけあります。(「赤と白」より)
 
 
 こう書くと、笑いを狙っているかのような印象を与えますが、みな大真面目に音楽に一球入魂、その姿が色気を醸し出し、男性中高年ばかりじゃなくて、女性ファンも急増中。「あら。この人たち大丈夫かしら」と応援心を誘います。
 
 マジは強い。年をとると、狙っても当たらない事を熟知しておりますので、そのままを出すしかないのだ、という諦念がみなぎっております。計算がなんぼのもんじゃい。そんな心意気に惚れたのか同情からか、ユニホームを提供してくれる人あり、発表の場を提供してくれる人あり、動かないわりに活躍中。
 
 しかも、以前真冬に訪問の際に「冬は来るもんじゃない」と思い知り、過ごしやすい夏初北海道ツアーという冒険が待っています。いいのでしょうか。
 
 昔、島本さん、末井さんが通っていた高田馬場にあったという飲み屋「バッカス」のママの言葉「歌はひたむきに歌え」を心に今日も作り続け、歌い続けるペーソスであります。
 
 しかしなあ、わたし、「前立腺が腫れてます~」ってお客さんと一緒に歌ってていいのかなあ、みなの声にまぎれて「いいのだ」と呟(つぶや)いております。
 
 ペーソスライブに出かけると、「ペーソス新聞」がもらえるよ。
 
 
●7月18日(金)
会場:新橋ZZ
住所: 東京都港区新橋4の31の6のB1
電話:03・3433・7120
時間:午後6時過ぎより入場出来ます。66-SPECIALと出演。
料金:前売り2100円 / 当日2600円
 
 
●ペーソス北海道ツアー!2014「また北ね!」
○7月20日(日)
会場:北見市・常楽寺本堂
住所:北海道北見市常呂町字常呂中央町
時間:午後5時半開演
料金:1000円(70歳以上無料!)
特典:帆立炊き込み御飯のお食事付き
 
○7月21日(月・祝)
会場:帯広・B♭M7
住所:帯広市西1条南10丁目2「マスヤビル地下」
電話:0155・26・5540
時間:開場 午後7時/ 開演 午後7時半
料金:前売券3000円、当日券3500円【1ドリンク付】
ホームページはこちら
 
○7月22日(火)
会場:札幌・Musica hall café
住所:札幌市中央区南3条西6丁目10-3、長栄ビル3階
メール:info@musica-hall-cafe.com
時間:午後7時開場、7時半開演
料金:3000円(1ドリンク付き)
 
 
●ボーイズバラエティ協会寄席~笑いの仕掛け花火~
○7月27日(日)
会場:浅草・東洋館
住所:東京都台東区浅草 1-43-12
電話:03・3841・6631(午前9時~午後5時)
時間:開場 午前11時半/開演 正午
※ペーソスは午後2時35分出演予定
出演:ペーソス、林家らっきょ、カズミファイブ、寒空はだか、三遊亭好太郎、チャーリーカンパニー、ほか
料金:大人2500円/学生2000円
 
●「桃月庵白酒独演会/白酒むふふふふふふふふふふvol.9」
○9月19日(金)
ゲスト:哀愁おやぢの平成歌謡「ペーソス」
会場:なかのZERO小ホール
料金:3600円
問い合わせ:03・5785・0380(夢空間)
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
定年後、一日中家にいるお父さんを 150
同窓会で、昔、冗談ばっかり言い合ってた同級生を 200
朝の散歩でいつも同じ時間、同じ公園で出会ってすっかり顔なじみになった方を 130
男の何たるかを未だ理解してないくたびれた嫁さんを 120
行きつけの飲み屋でひとりぽつねんと杯を重ね、ママにからんでる輩を 170
 
 
 
 
2014年06月13日(金曜日)
(その23)遊び心で裏切られ、わくわくランドリー、ナギプロ・パーティ
 
 「 梅雨中、お見舞い申し上げます」。というのがあってもいいのにね、暑中や残暑がお見舞いされるのならば、ね。梅雨もこれはこれでなかなかいいもんではありますが、心がじめっとするのはいただけない。そんなときには、ナギプロ・パーティ、いかがでしょ? その名の通り、とにかく楽しい楽しい、と繰り返してしまう。
 
 
ナギプロ・パーティ「渦33 ナギ渦」の様子
 
 芸道一筋とか、成功の裏にはこんな苦労が、とかいう話が日本人は好きですけどね。その根元にあるのは、嫉妬でしょうけどね。功成り名遂げた人の苦労話が好まれるのは、そんなにまで苦労したのならしょうがない、成功しても許しましょう、という暗黙の運・不運計算みたいなのが心のうちに芽生えるからなんでしょうけどね。またそれを狙って、ことさら不幸や厳しい修行を演出したりもなきにしもあらずなんですけどね。
 
 そういうのとは全然違うのがナギプロ・パーティ。基本コンセプトが、ワイワイ楽しくパーティーやろうぜ、というグループです。メンバーはレギュラーっぽい人が数人、そこへ入れ替わり立ち替わり、いろんな人が加わって、芝居のようなコントのような舞台が繰り広げられます。
 
 ナギプロ・パーティを見ていていつも私が思うこと。「こういう方々が楽しく生きていけるのが幸せな国だよなあ、そうしなきゃいかんよなあ」。ナギプロ・パーティ公演に登場する役者に気持ちよさを感じるのは、みな、自分の言葉で喋ってるから。言わされてる感、なぞり感、がないんです。台本をもらって覚えて演じてる、という窮屈な感じがしない。その場で思いついたように喋ってる感じをとても大切にしています。普段の遊び感覚を上手に舞台にのせてくる。事実、日頃からバレーボールやゲームやパーティをわいわいしてるらしいし。その楽しさが舞台に出てる。
 
   たとえば先日見た「ワーキーヤーキー」公演は、カタカナ言葉を意味ありげにランダムに話すシーンから始まります。「ニューシネマパラダイス」「マイフェアレディ」「キングコング」ときて、ははーん、映画のタイトルが続くかと思いきや、クレイジーケンバンド、ボランティアスタッフ、ドリンクバー、ファミリーマート、にまじってワーキーヤーキーの謎の言葉がまじり、ンン?とお客の頭にクエスチョンマークが浮かぶ頃を見計らって、照明カットイン、勢いよく全員ダンスシーンへ突入。説明部分を省く潔さがテンポをあげ、ナチュラル感を出してます。ナギプロはダンスの稽古にかなり時間を割くらしいのですが、小林真梨恵さんの素敵な振付けがそりゃあもう楽しいったら。
 
 なんて言うのかなあ、ダンスにしろ芝居にしろ、「極めよう感」がない。かと言ってもちろん下手じゃない。遊び心が横溢してる。わたし、こんなに苦労してこんないいお芝居になりました、というのより、舞台の人に楽しんで出ててもらいたい派なんですね。稽古場も楽しそう~。
 
 公演は、いくつもの小さな物語がオムニバスで交錯し、それぞれのシーンが関係あるようなないような感じで脳を活性化させ続けていってくれます。たとえば一つは、お店に、亭主に、猛烈に文句ばかり言う主婦、いわゆるクレーマーが出てきます。言いがかり以外なにものでもない理不尽な文句。でも結局、店の味が好きで、亭主が大好き!
 
 またひとつは、テレビ番組の編成が変わり、降板させられる人形2体、ネタ丸とネタ子の人生(人形生?)。ゆきつく先は、全国のゆるキャラブームで使い古されたキャラクターが集められた第4倉庫という名の再生工場。生きてく為に手足をもぎとられそうになると知って断固拒否、番組スタッフADとして精進し出す二人ですが、新番組を仕切っていたのは、業界のルールを熟知、常にステップアップをめざすロボットSPO3000でした。が、このロボットとて飽きられ捨てられ交換される運命にあり、ネタ丸ネタ子が復活することになりはしますが、その先は誰にもわかりません。
 
 また他の一つの軸には、シリアスな葛藤演技を求められ役作りに怠りない役者が、ふと気がつくと脇役に成り下がり…、主役は、葛藤する心の中にいたはずの天使と悪魔でした。この悪魔にしても実はもと天使だったという過去があかされ、それはどういう経緯かと言えば…。
 
 また一つは、深夜にある条件にかなう人を探してほしいと依頼されたバイトたち3人。みつけてきた男性は発注者の希望を大きくはずれ、大しくじり。テーブルにかけられた布をまくればそこには銀のハイヒール、このハイヒールにぴったりの足の人を探して来てと頼んだのに、なに、このオッサン!(ウーロン太扮するタンクトップのオッサン、最高!)ちょっと考えればこの人が適任かどうかとわかりそうなもんでしょ!と怒り心頭の発注側の会社担当者。が、3人も黙ってはいない。だって、注文された通りの人を探して来ましたよ、と応酬、女という条件はなかったですよ、もうやってらんないとばかりに不満たらたら。
 
   発注側はついに叫びます。
 
 「仕事ってそういうもんじゃないでしょ!?」
 
 出た。
 
 「察しろよ!鑑みてほしいのよ!」
 
 「意味、わかんねー」
 
 仕事現場でいかにも頻発されてそうな会話に大笑い。
 
 
 こんな中に、恒例ギャラリーアドリブシリーズがはさまります。
 
 たぶん、アドリブ半分かなあ、と思いつつ、いやいや微妙に計算しつくされてる感じもするなあなんて探りながら見ているのも実に楽しく。
 
 「あの絵、いいよね」「歯ブラシだね」「タイトル、希望だって」「わっかるなー」
 
 「消化器」「タイトルは、まごころ、わっかるなー」
 
 「靴箱」「オバマ、わっかるなー」
 
   どこが!!!
 
 空想で遊び、こじつけで遊び、それを突っ込んで遊び、ぼけて遊び。
 
 そんなこんなで大団円かと思いきや、ラストも裏切ってくれます。予定調和をくずしてくれるナギプロ・パーティー。だってさ、ワーキーヤーキーだもん。
 
 で、結局、ワーキーヤーキーって何だったの?
 
 脇役も主役もどっちもどっち、時と場合によって入れ替わり立ち替わり役柄変えて生きてくんだよね、とテーマを私なりにこじつけて考えてみましたが、皆さんはどうだったんでしょうかねえ? あれやこれやを、プロデューサーのように、ディレクターのように、出演者にもなりながら、作・演出の凪沢渋次さんがパーティーをまとめていきます。
 
 さあ、年に一度の広い空間でのナギプロ公演が始まります。真ん中にリングのような舞台があって、出ハケが四方八方からあるのでこれまた楽しいパーティーの始まりだあ。
 
 去年は、天井からいくつもの惑星に模された大きい風船、小さい風船が下がっていて、会場に入るなり夢の世界でしたよ。
 
 そうそうこれは番外編だけど、ナギプロ常連さんで、結婚したばかりの家事苦手主婦3人(西山えり香、相馬佐江子、榛原バラ美)が、だらだらおしゃべりする「ねじれ茶会」もネットでこちらからどうぞ。
★ナギプロ・パーティ単独ライブ『WAHOO JAPAN DX』
作・演出 凪沢渋次
2014年6月27日(金)19:00開場、19:30開演
会場 北沢タウンホール
前売2800円 当日3000円 (全席自由)
出演:相馬佐江子、木下昌直、田辺麻美、西山えり香、岩原正典、丸沢丸(東京アヴァンギャルド)、芦沢統人(パップコーン)、斉藤ゆき、井口千穂、後藤いくみ、川崎桜、凪沢渋次
ダンス振付け:小林 真梨恵
 
チケット発売中
北沢タウンホール 03・5478・8006
成城ホール(窓口販売)
カンフェティ 0120・240・540(平日10:00~18:00)
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
雨の日は家で寝てるという鬱気味の友達を 150
新年会、送別会、お誕生日パーティー、暑気払い、忘年会、いつだって幹事の方を 130
あるあるコントに飽きたし、深くて暗い演劇は今はヘビーすぎると呟いてた姐さんを 200
家事が苦手な嫁さんを 120
閉所恐怖症だから地下とかビルの一室とか無理~という広々大好き彼女を 170
 
 
 
2014年05月13日(火曜日)
(その22)怒濤のしゃべるイラストレーター、キン・シオタニゆる世界
 
 いま、ジャンルレスな人を御紹介するなら、キン・シオタニさんが筆頭でしょうね。初対面、トランプのように名刺を広げ、「どれがいいですか?」
 
テーブルの上に、イラスト付き「キン・シオタニ」「ギン・シオタニ」「ドウ・シオタニ」「ニッケル・シオタニ」などなど、多数の金属名を冠したシオタニ名刺が並べられました。私もフリーランサーで働いていると、ときによって、制作部、経理部、庶務課、総務課、人事課、の人となってことに当たらざるをえない状況がよくあったので、心中ひそかに、うんうん、その気持ちわかる、と頷いていました。今日の立場はなんだっけ? と自分に確認しながら、動く日々が続きます。このとき、私は確か、珍しいニッケル・シオタニ名刺をもらったような気がします。どれも実態はキン・シオタニさんなんだけども、こんな遊びをする人でしたね、当初から。
 
 
かる~くゆる~くキン喋り
しもきた空間リバティ渦33「風渦」にて
撮影:橘蓮二
 
 本名は塩谷均(シオタニヒトシ)。「均」の音読みからキンさんが呼び名となったらしい。著書のタイトル「沖縄の海の水を北海道に捨てに行く」にハッとして、長いタイトルのついた、たとえばこんなポストカード「人生という限りある時間のなかから永遠を見つけようとする青年」など詩的なフレーズにグッときて、高座で披露された「ハチミツおじさんの話」のオチにオッとなったのでした。
 
 スケッチブックに描いたローマ字に、線を描き足して人や犬や顔に変化させるさまを、その場でビデオ撮りしてスクリーンに映す舞台はキンさんならでは。この手法は、それまでの「文字絵」から、もっと即興性を前面に押し出したタイトル「ドローイングシアター」と名付けられました。このころ、いまのような時空を超えたTwitterが始まる前から、その場所限定のTwitterとでも呼びたいようなスタイルも始まりました。スクリーンに映し出される手書き文字で会場のお客様に呼びかけ、お客様が拍手と笑いで応える双方向コミュニケーション。スピードとテンポが命。
 
 ここで、井の頭公園で見ず知らずの人にポストカードを売ったり、ヒッチハイクの際に乗車OKか否かを瞬時に見分けてきた長年のキンさんの実績がものを言います。あらゆる人を相手に繰り広げられる大道芸会話とでも呼びたくなるキンコミュニケーション能力。これがさらに生かされて始まったのが、tvk(テレビ神奈川)の名物散歩番組「キンシオ」です。
 
 永六輔さんが言うまさに「路地を曲がればそこから旅が始まる」を日々実践しているキンさんが、全国を好奇心のままに駆け回る旅。「あ」のつく地名、「い」のつく地名、「う」のつく地名を散歩する「あいうえおの旅」、数字のつく地名へ出向く「1、2、3の旅」、「生き物の地名の旅」と思いつくまま気の向くままの遊び感覚で、キンさん、自由にはばたいてます。
 
 カメラを前にすると、実はできそうに見えてなかなかできないナチュラルなしゃべりは特筆もので、盛り上がらなければ盛り上がらないなりにそのまま流すスタッフの勇気にも感動です。面白いことに目がないキンさんの動きに対する信頼感が画面から匂い、見心地、聴き心地のいい、ゆる番組になってます。DVD「キンシオ特別編新作録りおろし1、2、3の旅16号を行く~気ままなぶらり旅」をじっくり見ていたらうまいもの情報とともに関東の歴史がほの見えて勉強になりました。
 
イラスト映像付き小咄
しもきた空間リバティ渦33「風渦」にて
撮影:橘蓮二
 
 そう言えば、満員御礼の関内ホール昼夜公演で見た面白くて為になるライブ「キンシノ」も思い出します。今では立川晴の輔の名で真打ち昇進した当時志の吉さんとの会だったのですが、関内、横浜の歴史が熱を込めて語られました。終演後、ホールを出た若い女子が大半のお客さんたちは、キンさん紹介の名所旧跡を興味津々でぞろぞろ訪問、結果、すぐれた観光案内にもなっていました。
 
 他にも、日常のちょっとした出来事をイラスト映像としゃべりで短編物語にして見せる舞台があるかと思えば、本業?であるイラストが吉祥寺の本屋ルーエのブックカバーや、倫理の教科書の表紙になり、あるときは異色のギター弾語りミュージシャン3人を紹介しながら司会をつとめる「アコギ1本」なるライブをプロデュースしたり……、趣味が仕事になるってこういうことなんだよねー、と思います。
 
 クリス・モズデル(イギリスの詩人)を心の師に、軽々と興味の赴くまま、あれよあれよという間にジャンルレスに動いてゆくキン渦は、はてしなくどこまでも。
 
 
キンシオ6日連続「浅草発見伝」
キンさんの目に浅草はどう映るのか、興味が尽きません。
5/20(火)~25(日)
トーク、ライブドローイング、紙芝居、外国人に一番人気の浅草を改めて知ろう
20日(火)~22日(木)19時
23日(金)14時と19時
24日(土)、25日(日)14時
前売3000円(別途ドリンク)
チケットはこちらから
 
6月8日(日)「こどもキンぱれ」
キンさんが子供を相手にすれば~。子持ちの晴の輔とともに親子に送るライブ。
西新井文化ホール(ギャラクシティ)
13時半開場、14時スタート
出演、キン・シオタニ、立川晴の輔
前売りはイープラス他で
3500円、4才~高校生は1500円
チケットはこちらから
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
人見知りする友達を 150
いつもうつむきかげんで溜息ばかりついてる両親を 130
スイーツに目がなくてお店巡りをする女子どうしで 200
場所でも、人でも、お稽古ごとでも、なんでも初めてだと緊張で足も手も動かなくなる彼を 120
梅雨前に気持ちを陰干しすればいいんじゃない?という友を 170
 
 
【リンク】
 
 
2014年04月16日(水曜日)
(その21)黄金連休前半、よろしかったら御一緒に、笑い渦に巻き込まれに
 
 小さなライブ会場へ足を運ぶのは、たぶん人間を見に行くんでしょうね。繰り返しのきかないそこだけの一期一会。一瞬が永遠にもなる邂逅(かいこう)。
 
 舞台へ出る人というのは、なんらかの面で普通より飛び出たりへこんでる人たち。そんな人たちを一挙に間近に見られるのが「渦」というライブです。80人も入ればいっぱいの会場に、次から次へと個性的な人たちが出て来ます。
 
 それぞれの宇宙。笑いのベクトルも違います。だからほんとはね、あまり気が合わない人とでも出かけられるようになればよりいっそう楽しくなるだろうになと思います。理想です、夢ですが。
 
 感覚が同じ同士で、あそこがいいよね、そうそうそう、ほらあれってないよねー、うんうんうん、と親交を深めるのに役立てるのもいいのですが、感覚の違う人と「なんであそこで笑ったの?」「ええ?!あれがおかしくないの?なんで~?」なんて話し合えるとさらに愉快。違うって面白いじゃない?
 
 でもこれはかなり信頼しあった仲じゃないとできない会話でしょうね。娯楽って基本的に、共感を確認し合うためのもので、そのために料金を払うんだものね。でも、人って違ってあたりまえという大前提があれば、違う事を面白がれるんじゃないのかなあって。
 
 戦争って、利益の分捕り合戦というのもあるけれど、感覚の相違、対立というのも大きいわけでしょ? つまり、違う感覚を認め合うことを日頃からお稽古しておかないと戦争はなくならないんじゃないのかなって。同じもんどうしが集まってれば楽だけど、いざというとき、きっと困ると思う。もし、火星人がやって来たら、いろんな人がいればコミュニケーションがとれる確率があがるじゃないですか。
 
 そんな夢物語はおいとくとして、出演者の横顔を御紹介しがてらそれぞれの渦を。
 
 
 
 
「鉄渦11」
 おお、もう同じメンバー3人で11回目になりました。落語家の古今亭駒次さん、コメディジャグラーのダメじゃん小出さん、スタンダップコミックの寒空はだかさん、がそれぞれの視点から鉄道へのゆるぎない愛を語ります。駒次さん、ナンセンスから人情噺まで、鉄道をネタにした新作落語がすでに11本たまりました。今でも忘れられないのは、ネタ終了後3人トークの場面で、お客様から差し入れされた鉄道時刻表に指をはさんでトークに参加していた姿。寒空はだかさんがめざとくそれをみつけ、何か言いたいことがあるのだろうと気をきかして話をふれば、なんのネタがあるわけでもなく、ただ早く楽屋へもどって貨物時刻表の続きを読みたいだけなのだと。舞台そっちのけで貨物時刻表が気になってるというこの無邪気さ加減に笑っちゃいましたとさ。
 
 公演準備で、ダメじゃん小出さんに出演日程調整の際、その日の昼はダメなんですよねー、夜だったら大丈夫なんですがー、というのでよくよく聞いてみたならば、昼間に鉄道マニアにとっては大変な記念すべき鉄道に乗れるチケットが運良く当たったのだとか。「じゃあ、その体験を夜に喋っちゃえば?」と無謀な提案。前もって手作りパネルを会場に宅配、当日は現場から会場へ直行。熱さめやらぬ発表報告がなされました。が、凄かったのは「実は今日の昼間、乗って来たところ」とばらしたのはトークの最後。思わず会場からは「ええ~!!」の大歓声があがりましたとさ。寒空はだかさんは、下北沢という駅は、なにゆえに小田急線と井の頭線の改札口が同じなのかを解き明かし、地下に眠るらしい演劇の怨霊を甦らせ、古い邦画に登場した鉄道を検証し、銀河鉄道「渦駅」へ至る大河物語があるかと思えば、自らもとオチケン体験を生かして高座にもあがりました。実はバスの車掌バイトもしたことがあると黒いバッグまでぶらさげたその姿が似合いすぎ。
 
 この3人に触発されてか、スタッフのお母様は、ためこんだ鉄道バッジを御提供くださり、お客様にプレゼントしたり、やはり鉄道好きのお客様は、昔懐かし切符切りになりきって会場入り口でチケットにパチンと穴をあけたりの姿もいとをかし。細かい鉄道用語やマニアックな話題に笑うお客様とぽかんとするお客様がシャッフルしてるのもいとをかし。
 
 
「喋り渦」
 いつもは松元ヒロさん山田雅人さん林家彦いちさんのレギュラーメンバーですが、今回は立川志ぃさーこと沖縄の藤木勇人さんが登場です。落語をネタにしたひとりコントのような語りを何度も見た事がありますが、これがおおらかでいいんです。江戸の笑いが沖縄の笑いに昇華。中野の劇場MOMOで見た、沖縄の美輪明宏に扮して歌った「ヨイトマケの歌」も沁みました。渦31では、直前に亡くなった登川誠仁さんを語りいい供養になりました。さあ、今回は、立川志の輔門下に入り、志ぃさーとして初お目見え、どんな話が聞けるのでしょう。
 
 山田雅人さんは、野球に競馬に相撲に映画に芸人にその守備範囲は広く「山田かたり」という手法でなんでも作品になってしまいます。ちなみに山田一家は動物好き。犬に亀にイモリが同居。なんとかいう珍しい亀をやはり飼っているのが林家彦いちさん。二人が会うとこの亀の話でもちきりです。笑っちゃったのは、山田さんが熱く野球を語り、それをモニターで見ている松元、彦いち両人は野球音痴。ここにスーパー野球音痴の木村も加わって打ち上げのちぐはぐなことと言ったら。山田さん「こんな野球の知らない人たちと一緒って初めて、えらい新鮮ですわー」。知らない人とも交われる渦の魅力!これです、シャッフルの妙味。でも、松元ヒロさんは、ザ・ニュースペーパー時代、長島茂雄に扮して笑いをとっていたんですけどねえ、野球音痴もいいところです。さて、今回参加の志ぃさーさんは、野球、ベースボール、どーなんでしょ?
 
 
「風渦」
 いろんな風に吹かれてね、という意味で名付けました。キン・シオタニさんはまったくオリジナル世界をつくりあげました。否、つくりあげています。日々、更新し続けるキンシオワールド。いわゆるおおげさなレポーター口調は苦手だけれど、テレビ神奈川の旅番組でなんともゆるい自然体レポーター、キンシオタニさんの清々しいこと。もともと旅人気質をもつ人なだけに、その場その場で臨機応変に対処してゆく様が愉快です。渦では、独自に開発した「ドローイングシアター」を披露。テンポよくイラストで物語を描いていきます。ちなみに、渦の出演者フリップもキンシオさんの手になります。
 
 遠峰あこさんも元はイラストレイターだったのに、ある日、相性抜群のアコーディオンと出会い、民謡から笑える歌から泣ける歌まで、その堂々とした歌いっぷりで魅了します。目下、モロ師岡さんとつくった曲「ぼく、かっぱ巻」拡散中。こぼれ話としては、下北沢の本多劇場の前にあった「屋根裏」というライブハウスに出た事があるそうです。ちなみに林家二楽さんも出てたって!(「キンニラ+あこシアター」楽屋で耳にしてびっくり!二人ともパンク~!)
 
 上野茂都さんは、汲めど尽きせぬお方です。博識なんてものじゃなく、ふふっと笑える野菜やケーキや煮物や焼き物の歌から、爆笑のデート話の歌から、ぐいっとえぐられるような恐ろしい歌、空のかなたまで飛んでゆきたくなるロマンチックな歌まで。しかも、おばあさまから受け継いだ三味線弾きも独学で。講談、浪曲のさわりをちらりとやってみせてくだすっても、ぴたりと決まる由緒正しき日本人。「清貧という言葉は上野茂都さんのためにある」と言ったのはペーソスの島本さんのおかみさん。「重くてビールのジョッキは持てないし、水たまりを飛び越えられない人」と私に紹介したのは、名古屋の名物ライブハウスTOKUZOのいずみさん。
 
 ペペ桜井さんは、寄席ではいろものさんとして出演しながら、実はクラシックギター演奏の名手の噂。年月を経て熟成された間と喋りは、他の追随を許しません。お年を召して、馬鹿馬鹿しさに磨きがかかりました。新宿Fu-など、若いお笑いライブの客席に座っていることも。笑いと時代を貪欲に勉強し続けるペペ先生の姿勢に若き漫才師ロケット団もリスペクト。先日、春風亭昇太さんが主役の下北駅前劇場での芝居「ザ・フルーツ」で井之上隆志さんが演じた芸能プロダクション社長「ペペ伊藤」の名は、ペペ桜井さんからきてると私は100%確信しいていますが。
 
 ペーソスさんは、中高年の星、風変わりな四人で形成されています。知る人ぞ知る風俗ライターキャラなめだるま親方こと島本敬さんがボーカル、大手出版社会社員スマイリー井原さんが司会をつとめ、島本さんの同級生だった旧メンバー岩田さんの代わりに最近入った若きギタリスト米内山尚人さんが続々新曲をつくり、重い事実をやわらかな筆致で描いた本「自殺」が増刷を決め頬が弛み中の末井昭さんはいよいよペーソス専属のサックス奏者になりました。できることなら女によりかかって生きてゆきたいと情けなーい心情を歌います。「こんなでもええかー」と同類男性は思い、「こんな男性がかわいい」と変わった女の人まで現れてファン微増中。
 
 
 あ~、ここまで書いて、まだ半分~。くたびれたので今日はここまで!渦33開幕前に時間があればまた続編を書くつもり。こんな渦でよかったら貴方も巻き込まれてみませんか?
 
 
「渦33」
●2014/4/26~29土日月火祝 7公演
★広島の名酒「富久長」試飲付き。
時間:昼14:30~ 夜19:30~
会場:しもきた空間リバティ(下北沢駅南口、マクドナルド左下る、ABCマート4F)
料金:3000円(ただし4/28.月夜、29.火祝昼「ナギ渦」は2500円)/自由席/予約者優先入場
当日受付開始は開演1時間前、開場は開演30分前
予約問合:件名「渦33予約」 uzumarishiro@icloud.com
       電話 03-5856-3200渦産業
公演渦名、日にち、お名前、枚数、折り返し連絡先を明記、もしくは留守電吹き込みよろしく。(※メール予約の場合、返信PCメール受信を可能な設定にしておくか、電話番号明記よろしく!)
 
■4/26.土昼「鉄渦11」 寒空はだか、ダメじゃん小出、古今亭駒次
■4/26.土夜「喋り渦7」 山田雅人、林家彦いち、立川志ぃさー(藤木勇人)
■4/27.日昼「風渦」 ペペ桜井、上野茂都、ペーソス、キン・シオタニ、遠峰あこ
■4/27.日夜「お渦」 モロ師岡、ナオユキ、おしどり、岡大介、恩田えり
■4/28.月夜、29火祝昼「ナギ渦」『ワーキーヤーキー』ナギプロ・パーティ2公演/作・演出 凪沢渋次 相馬佐江子、村田留美子、木下昌直、関絵里子、岩原正典、吉田ウーロン太(フラミンゴ)、佐藤もとむ(温泉きのこ)、佐々木豊(天幕旅団)、後藤飛鳥(五反田団)、凪沢渋次 ほか
■4/29.火祝夜「夢渦」 だるま食堂、山本光洋、オオタスセリ+田中真弓、柴草玲、バロン
 
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
このチラシ見てたら知らん人ばっかりや、という方を 150
モロ師岡さんだけ知ってる、オオタスセリってひょっとしてペコちゃん?という方を 130
わざわざお金を払って知らない人を見なきゃいけないわけ?という方を御招待して 120
定年になって人が集まる小さなスペースを作ったんだけど出演してくれる人を探しにという方を 200
黄金連休、旅行を予定してたけど消費税増税に腹が立つから近間で遊びたいという方を 170
 
 
 
 
2014年03月24日(月曜日)
(その20)演芸場、ライブハウス、全国一人喋り三度笠、ナオユキ
 
 おおげさに言っちゃうけど、笑いって宇宙の把握の仕方なんじゃないでしょかね?
 
 ものさしの違い、どうしようもないズレで居心地悪い状態を笑いでようやく解消しているんですよね?  
 強制されない、自発的な笑いを誘発すべく、見るたびに進化していると思うのは、ひとり喋りのナオユキさん。最初、大阪のオレンジルームで見たときは漫才師ダックスープの片割れで、ひきこもりを思わせる白い顔のデリケートすぎる青年でした。  
 
 10年後、坊主頭の強面、ダブルのスーツで客席をねめまわし、面白いことを喋る漫談家、アメリカスタイルのトーカーになっていました。この10年間にいったい何があったんだ!?  
撮影:hiro
 
 
 その次は、よれよれの酔っ払いおじさんがぼそぼそ呟くスタイルに変っていました。内容が先鋭であるだけに、でたらめな奴の世迷い言のスタイルをとった方が笑いやすくなる、ので。アホやったら赦される。  
 出番が演芸場、そしてライブハウスへ、ミュージシャンとの共演が増えると、その喋りはより音楽的になっていきました。世間の見方を鋭く突きつつ、一方でリリカルに情景を謳いあげるようにもなりました。  
 「僕らには、ジャンルのお客がいないですからね」  
 映画、歌舞伎、クラシック、民謡、能、狂言、落語、浪曲、講談、ダンス、芝居、プロレス、野球、サッカー、あげればきりがないけれど、そのジャンルについてるお客さんがいない場所で勝負するきつさは相当なものだと思います。  
 でもそれゆえに、思いもしない場所へ到達できる可能性も大きいのでは。師匠もコーチも同僚もいない現場で日々闘い、なにをよしとするか、どういう判断をくだしていくか、すべて一人。  
 芸人にとって、否、表現者にとっての一番の喜びは、思いもしない地平に立てたときじゃなかろうか。ネタをいくつ覚えるか、面白いことをいくつつくれるか、笑いの数と量をどう増やせるか、そんなとりあえずの目標の果てにあるのは、きっと、当初の目的とは大きくはずれた域に入れたときなのでは。  
 例えばこんなとき。
 
 「少しずつ演芸のお客さんがライブハウスに来て下さったり、反対に音楽のお客さんが演芸場に来て下さったり、やっとそうなってきました」というナオユキさんが最近出会った嬉しい事件とは。  
 「若い頃はまったくそんなことなかったのに、小学生や中学生が楽しみに待ってくれてたりするんです。話の内容は、夜の話、大人の話がほとんどやのに実にタイミング良く笑ってくれます。多分ネタの内容でなく、俺自体を生物として面白がってくれてるのかもしれません。先日、岡山県の小学生の女の子からファンレターをいただいて読んでみたら一言『夢に向かってGO』。(笑)もうすでにGOしてるよ。GOALはまだしてないけどと。これも岡山県の小学生の女の子『今度いつ来てくれるの?』。おまえは愛人かと言いそうに。(笑)島根県では本番中に前に座っていたこれも小学生の女の子から突然『一年生と六年生どっち好き?』と尋ねられたので『うーん、好きとかと違うけど戻りたいなら1年生かなー』と言うと『わかったー』と言って何やらメモ用紙に書いてる様子。気にせず舞台を続けていると『できた!あげる!』と渡されたのが『一年一組おもしろかったこいい人』と書かれた名札。『ありがとう』と言ってポケットに入れようとすると『付けて。付けて喋って』(笑)いただいた名札を付けて最後まで喋りました。」
 
 古くは、「包丁一本さらしに巻いて旅へ出るのも板場の修業…」という「月の法善寺横町」という歌があったが、ナオユキさんは、包丁すら持たずに、口一つで全国を駆け抜ける喋り三度笠。  
 日本全国まわってはって笑いに違いがありますか?  
 「地域差はさほど感じませんが、南のほうがなかなかお客さんがオンタイムで来られないことが多いですね。沖縄はやはりウチナータイムということで20時スタートで皆さんが集まったのは22時なんてこともありました。四国はすごく元気なお客さんという印象。九州や広島はお客さん自身が積極的に楽しもうとしてくれはります。でもお客さんもあたたかく年に何度も行かせてもらいます。島根や鳥取は一度気に入って下さったら何度も足を運んで下さいます。中部地方も北陸もそう。北海道は数回しか寄せていただいてませんがちゃんと聴いて下さるという印象。東北もそう。東京は各地方から集まって来てはるので場所によってという感じ。大阪は若い人達はあまり東京と変わりませんが中年から上の方はしっかり聴いてくれるけど、好みがはっきりしててうけつけへんもんはうけつけへんて感じです。」  
 ナオユキさんが「R-1ぐらんぷり2011」に進出したときに思ったのですが、テレビ用になにか手法を変えたわけではなく、いつものままで進出したことが素晴らしいなと思いました。
 
 「R-1は、話芸というよりもテレビにそぐうピン芸とは何か、大衆にそぐうものは何か、と芸人も作り手も手探りで新しいフォーマットを探してる最中のような気がします。」  
 模索が続く笑いの現場。抜き差しならないテレビと芸人の関係、スポンサー、客層、地域差、ジャンルの垣根、なんにしろ、毎日が綱渡りであることには違いない。
 
 でも、きっと、楽しい綱渡り~。ナオユキブログで登場ライブを御確認くださいませ。  
 
●「天満天神繁昌亭昼席」
日時:3月24日(月)~30日(日)13時~
出演:林家染吉 笑福亭笑助 春風亭柳之助 ナオユキ(漫談) 桂米紫 桂枝三郎
     //仲入// 
   柳家紫文(粋曲) 露の慎悟 笑福亭遊喬 桂米団治
        料金:お一人様/一般のお客様:前売り2000円/当日2500円/65歳以上のお客様:2000円/身障者・高学生:1800円/小中生:1500円/団体割引(10人以上)/一般のお客様:前売1800円/当日2200円/65歳以上のお客様:1800円/身障者・高学生:1500円/小中生:1000円
会場:天満天神繁昌亭(大阪市北区天神橋2の1の34)
 
 
●「Good Music Good Feelling」
日時:3月23日(日)開場18時/開演19時
出演:ふちがみとふなと/ナオユキ/バンバンバザール
料金:予約3500円/当日4000円 (要1オーダー)
会場:(京都市北区紫野東藤ノ森町11の1)
 
●「ナオユキととんちピクルス」
日時:3月30日(日)開場18時/開演18時半
出演:ナオユキ とんちピクルス
料金:2500円
会場:ザ・ロック食堂(大阪市阿倍野区松崎町4の5の38 06・4399・5353)
●「ナオユキ 難波屋LIVE」
日時:4月1日(火)
出演:ナオユキ 19時~20時~(2ステージ)
料金:投げ銭
会場:難波屋(大阪市西成区萩之茶屋2の5の2 地下鉄 動物園前駅2番出口)
 
<誘っていーもんかどーか度(100点満点で)>
大阪の芸人て押して押して押しまくるやん、あれ苦手、という方を 150
飲めて食えてゆったり聴ける大人のライブハウスなら行ってみたいという知り合いを 130
合コンで披露できるようなちょっと面白いネタを仕込みたいという不純な動機でもOK 120
受験勉強生活が終わってゆとりができた姪っ子や甥っ子を 200
フリーランスで確定申告を終えたばかりの仲間を 170
 
 
 
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もくじ
(その29)スタンダップコミック、寒空はだかフィクション世界

(その28)会話劇ふたり芝居とひとり芸講談・浪曲・音曲(おんぎょく)の妙を体験すべし

(その27)落語のぬくぬく風を~。瀧川鯉昇、柳亭市馬、三遊亭兼好の巻

(その26)古典に新作に映画に自転車に雲助一門、の桃月庵白酒さん

(その25)軍歌にジャズに歌謡曲、平和願って今日もガーコン落語家、川柳川柳

(その24)中高年おやぢの哀愁、よりかかり放題の第二、第三の人生を歌う50歳デビュー、100%マジで冗談「ペーソス」

(その23)遊び心で裏切られ、わくわくランドリー、ナギプロ・パーティ

(その22)怒濤のしゃべるイラストレーター、キン・シオタニゆる世界

(その21)黄金連休前半、よろしかったら御一緒に、笑い渦に巻き込まれに

(その20)演芸場、ライブハウス、全国一人喋り三度笠、ナオユキ
 
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