●2017/7/6.木 立川シネマシティ「セールスマン」
岡町高弥
今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイラン映画「セールスマン」をやっと見ることができた。
監督アスガー・ファハルディは、「別離」を見た時にちょっと山田太一作品に似ているなと思ったが、本作を見てさらにその思いは強まった。もちろん、トランプに抗議してアカデミー賞を欠席した硬骨感ぶりは傑出している。私が山田太一と似ているなと思ったのは、日常のリアルな世界を丁寧に掘り起こしていくことで、とんでもない普遍性を獲得していくその過程のスリリングなところだ。
この映画も実に不穏なオープニングで幕が開く。
突然のマンション崩壊で家を出された夫婦に巻き起こるサスペンス映画にして人間ドラマ。国語教師のエマッド(シャハブ・ホセイニ)と妻ラナ(タラナ・アリシュステイ)は、趣味で芝居をしている。家を出されても、アーサー・ミラー原作の「セールスマンの死」の稽古に余念がない。たまたま劇団員の紹介で引っ越せたマンションは曰く付きの部屋だった。妻ラナが入浴中見知らぬ男に襲われる。復讐心に燃えるエマッドと傷心のラナとの間に小さな亀裂が走る。やがて犯人を見つけ出すと思いもかけない男が目の前に。
男女の溝、夫婦の確執、すれ違う心理、そのあたりを上手く映画で見せている。
「セールスマンの死」を劇中劇にはさみながら、ラストまで一瞬たりとも目を離せない。
同じ空を見ていると思ったら違う景色を見ていたのかという流れはイランも日本も昔も今も変わらない。
さすが名匠ファハルデイ、映画の余白を熟知している。
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