●2017/5/30.火 東京芸術劇場アターウエスト
「イキウメ「天の敵」/作・演出:前川知大」
岡町高弥
見終わって芝居の世界からなかなか抜け出せない。
作り込まれたフィクション はやすやすとノンフィクションを越えていく。
舞台の壁一面に食材が入ったビンがゆうに三百個は納められている。さながら実験室のような菜食料理教室が舞台だ。食餌療法で有名な料理家・橋本(浜田信也)を取材しにやって来たジャーナリストの寺泊(安井順平)。
免疫系の難病を患う寺泊は、胡散臭いと思いながらも戦前に著名だった食餌療法の権威長谷川卯太郎とのつながりを調べたく橋本をインタビューする。
すると、橋本の口から実は自分が長谷川で今年122歳になるという。どうみても30代の橋本がなぜ、122歳の長谷川なのか。奇想天外な設定が抜群で芝居は橋本の回想シーンに寺泊が付き合う形で122年の歳月を2時間15分で見せてしまう。
ともすれば嘘のような話に説得力をどう持たすか。シベリア出兵で飢餓にに苦しんだ医師橋本が仙人のような食の求道者時枝(森下創)と運命的な出会いをすることでやがて不老不死の療法を見つけ出す。
その流れが鮮やかでスリリングでどきりとする。
物語の後半は不老不死やアンチエイジングが必ずしも幸せに繋がらない橋本と死の恐怖が迫る寺泊との対比が鮮やかになっていく。
退屈な長寿と生きることへのこだわり。前川はその辺りの人間のエゴと欲望、孤独や苦しみなどを丹念に描き芝居を骨太なものにする。アンチエイジングと健康志向が人を幸せにしない現実もきっちり見せる。
そして、芝居ならではの時空を越えた飛翔感がたまらない。クスクスと笑えるシーンも随所に織り込み秀逸な大河ドラマを見たような心地よい満足感を与えてくれる。前川知大の作劇術に脱帽だ。
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