●2017/5/12.金 角川シネマ新宿「わたしはダニエル・ブレイク」
岡町高弥
どうしても絶対に見なければならない映画というのはある。今年に入って全く映画館に行けなかったが、間に合った。
御年80歳、名匠ケン・ローチ監督が引退を撤回してまで撮りたかったテーマが人間の尊厳と貧困だ。59歳になる大工のダニエル・ブレイクは心臓疾患で休職を余儀なくされている。休職手当を申請するも手続きは複雑怪奇で認めれない。さりとて求職手当も認められず、パソコンを使えないダニエルは申請すら受け付けてもらえない。名大工だったダニエルは途方にくれるばかり。
同じ職業安定所で門前払いを食らった小さな子供二人を連れたケイティに同情し彼女たちを助けることに。困っている隣人がいたら手を差しのべる。人として当然の善行がないがしろにされる社会。ケイティは父親の違う二人の子供を懸命に育てようとするも貧困から逃れらず、身体を売るはめに。
ダニエルも尊厳を守るために大胆な抗議にうって出る。「わたしはダニエル・ブレイクだ。番号じゃない市民だと」。
普通の市民が貧困の罠にはまっていくまさに福祉国家イギリスの現状だ。役者たちが皆リアリティがあって映画とは思えない力がある。
ラストはハッピーエンドではないが、ダニエル・ブレイクの魂に訴えるメッセージが秀逸だ。久しぶりに魂が震えた。人間が人間らしく生きることができる社会、ささやかな暮らしを守る権利、人間性の回復とは何かを問うた映画だ。
優れた映画とはファイティングスピリット溢れる映画だということをケン・ローチは教えてくれる。いろいろと語りたい思いが止まらない稀代の傑作だ。
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