●2017/4/11.火 シアタートラム「エジソン最後の発明」
岡町高弥
母親の三回忌を終えた今、時々、無性に母親と話をしたくなるときがある。声が聴きたくなる。
7年ぶりに作演出に戻った青木豪がそんな願いを見事に芝居にした。
「エジソン最後の発明」の舞台は下町の工場を改装した「らぼ」というイベントスペース。町工場を取材しようとラジオアナウンサーの深春(瀬奈じゅん)とディレクターの仲木戸(東山義久)が現れる。深春の父親糀谷真一郎(小野武彦)と息子正(岡部たかし)は、取材相手がダメになり知り合いの工場で働く親子を紹介しようとてんやわんや。代役は真一郎の親友油木の息子(武谷公雄)とその母親。結局、母親は出演できず叔父の恒夫(八十田勇一)とラジオに出演するはめに。物語は仲木戸の深春への求婚話を軸に思いがけない方向へ。実は真一郎がエジソン最後の発明と言われた死者と交信するスピリットフォンの開発に取り組んでいるという。仲木戸がスピリットフォンを作れば娘の結婚を認めると。この奇想天外な条件に応えようとする仲木戸。町工場の経営に苦しんだ博之の父親は何で死んだのかとおかしな憶測が駆け巡る。青木豪は巧みな脚本で父娘のぶつかり、夫婦のスレ違い、おかしな隣人ちょっぴりスピリチュアルなシーンなど日常の会話のやり取りだけで笑いを作り上げる。そしてその脚本にきっちり答えた役者陣も素敵なアンサンブルだった。劇中、亡くなった真一郎の妻幸枝の声が流れる時、不意を突かれたような感情がこみ上げてくる。残されたものはいろんな想いに囚われるという小野武彦の言葉は青木豪の心情であろう。亡くなった人たちに思いを馳せて心を通わす人情喜劇。
涙あり笑いありの名手青木豪、会心の作品の誕生に立ち会えたことを喜びたい。
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