●2017/2/11.土 「劇団民藝/野の花ものがたり 徳永進『野の花通信』より
/作・ふたくちつよし、演出・中島裕一郎」
岡町高弥
紀伊國屋サザンシアターへ。紀伊國屋書店がニトリに変わってしまったビルがどうにも馴染めない。
そうか、この手の芝居の見せ方があったのかと感心した。
物語はある種のドキュメンタリーだ。鳥取で現役の徳永進医師が院長を務める19床の小さなホスピス「野の花診療所」を舞台にした芝居。
野の花診療所徳丸(杉本幸次)の語りから始まってホスピスの日常が淡々と描かれていく。「23時間あらゆる患者さんに対応します!」をモットーにした終末医療。「死は閉じられたものでない。死ぬことは生の一部だ」と時折はさむ徳丸の言葉が温かい。
粗暴で頑固、迷惑をかけ続けた老人(松田史朗)となおも支える娘 (桜井明美)、死が目前に迫るも粘菌研究に情熱を注ぐ研究者の夫(横島亘)とその妻(新澤泉)、お地蔵さんの世話にこだわりわがままを人のよい夫(安田正利)にぶつける老妻(箕浦康子)、理不尽にも若くしてガンに襲われたことを嘆き苦しみ怒る男(みやざこ夏穂)と見守る妹(飯野遠)。
自ら末期ガンでありながら診療所に野の花を生ける中年女性(白石珠江)、診療所を掃除し続ける青年(和田啓作)。病を抱える一人一人の物語を丁寧に見せる。
私の母親が敷地にあったお地蔵さんを世話し続け、引き取り大田区にある御岳神社に寄贈した思い出がふいに甦ってきた。
死はドラマチックではなく、呆気なく過ぎ去っていく。両親を見送ったことが頭をよぎる。いささか美しすぎる幕切れも芝居は理想形であって欲しいと願う民藝の思いが込められているようで良かった。
「よろこびが集まったよりも悲しみが集まった方がしあわせに近いような気がする
強いものが集まったよりも弱いものが集まった方が真実に近いような気がする
しあわせが集まったよりもふしあわせが集まった方が愛に近いような気がする」
徳丸院長が紹介した星野富弘の詩が効果的だ。懐の深い層の厚い民藝にしかできない傑作だった。
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